その出張、異議あり!in関西⑺ (パラレルオフィスラブ)

その出張、異議あり!in関西⑺ (パラレルオフィスラブ)

 

 

*本編から半年くらい前へと遡った内容になっています。

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

*とだちゃんの言動が少々乱暴なシーンがやや含まれるので要注意。

 

 

「暴力で対抗するつもり? あんた、そのひょろっちょい体で男に勝てると思ってんの? アホやろ」

「こんなんでも小さい頃から少林寺拳法で腕っ節鍛えてるんやで…それと、アホとか下心丸出し男に言われたないわ」

「…とってぃ…危ないから近づくのは…ぅぅ…離して」

「あんた、新垣さんとどういう関係か知らんけど、通報されたくないんなら早くどっか行ってくれへん?」

 

 尚もぐいっと引っ張って連れて行こうとする掴まれている手から逃れようと、怖がりながらも必死になって離そうともがいていると、戸田がわたしと運転手の側まで近づいて怒鳴り散らした。

 

「……てかさあ、あんたこそうちの嫁を早く離さんかいや、このダボッ!!」

 

 なんと驚いたことに他社の壁をドカッと足裏で蹴って恐ろしい顔で威嚇する戸田が危険人物だとようやく察して恐れをなしたのか、運転手の男性社員は手を離していそいそと逃げて行ってしまったのである。

 


「ふぅー、ああいう奴がどこの会社にもいるから出張させるんが嫌やったのに…」

「…とってぃ…わたし…あの…ね…ごめんなさい…」

 

 ついさっきまで掴まれていた腕がヒリヒリして痛い。

 しかし腕よりも、戸田が来てくれなかったらどうなっていたのかを考えるともっと胸が痛かった。

 

「ほらこっちおいで、結衣…もう大丈夫だから…よしよし」

 

 戸田が広げた腕の中に飛び込むように抱きつき、震えるわたしの背中を撫でる優しい戸田に身を委ねて声を上げて泣いた。

 

「…ぅぅ…うぐっ…わぁあああっ!!とってぃ、とってぃ…すごく恐かったぁああ…」

「うちがおるよ、これからもわたしが結衣を変なヤツから守ってあげる…だから大丈夫」

 

 大丈夫と何度も耳元で言ってあやしてくれる優しい戸田に抱きしめてもらえると安心する。

 わたしよりもやや小柄な戸田だけど、頼れる彼女の懐は誰よりも深くずっとそこに包まれていたいとさえ思ってしまうほどだ。

 

 …好きだと伝えてしまいたい。

 ここが自分の会社で彼女に恋人がいなければ確実に伝えているだろうなと、冷静な自分がいたりもして。

 …結局毎度のこと伝えられないのは、誰かから奪う恋ではいけないと思う真面目な自分が本心を沈めてしまうから、たぶんこの恋は…

 

「…結衣…もう泣いてない…?」

「…うん…もう大丈夫…肩濡らしてごめんね…」

 

 …叶いそうにない。

 

 戸田が壁を蹴った音とわたしの号泣した声が響いて届いていたのか、天海さんとこの会社の社員が数人会議室から出てぞろぞろとこちらにやって来たのだ。

 

「さっきドカッと音が聞こえたんだけど新垣何を騒いで……っ?! ちょっと戸田、何でここ(関西)に居るのよ!」

 

 キッと険しい顔で天海さんを睨む戸田は再び怒りを全身で表している。

 

「うちのことよりも、さっきまで新垣がこの会社の男性社員に腕を引きずられて酷いことされかけたんですよ!」

「な、何ですって!?」

「何で目を離したところに居させたんですか??」

「新垣…誰に乱暴されそうになったの?」

 

 天海さんの背後には大ごとにしないでくれと願わんばかりの顔をした男性陣が数人見え、自分の方が悪い事をしたみたいに追い詰めるような視線が飛んでくるのが心苦しくて、何も言えずに俯いてしまう。

 

「そいつは中肉中背で、四角い黒眼鏡を掛けてました」

「戸田に聞いてるんじゃない」

「新垣は今の今まで泣いてたのにそう易々と答えられるわけがないでしょう! 同性の天海さんがそちらの方々と一緒に追い詰めてどうするんですか」

「それは…新垣、気遣えなくてごめん…」

 

 わたしの現在の心境を分かってくれるのは戸田だけでもいい、彼女が味方でいてくれるなら他には何もいらない。

 これ以上事を荒立てない為に、わたしは自分から黙って退くことしか考えられなかった。

 

「…あ、あの…運転手の方にお茶をしようと誘われただけなんです…それだけですから…お騒がせして申し訳ありませんでした」

「新垣…ちょっと腕の付近を失礼するわね…」

 

 天海さんはわたしの七分袖ブラウスの片腕を捲って掴まれた付近の裏表をしばらく観察した後、「あなたはもうここはいいから、気持ちが落ち着くまで戸田と一緒にいるといいわ。また夕方頃に連絡するわね」と優しい口調で話して、わたしから鞄を受け取り男性陣に戻りましょうと言って会議室へと歩いて行ってしまった。

 

 天海さんを共に見送った戸田に手を引かれて出張先の会社からようやく解放されたのだった。