その出張、異議あり!in関西⑵ (パラレルオフィスラブ)

その出張、異議あり!in関西⑵ (パラレルオフィスラブ)

 

 

*本編から半年くらい前へと遡った内容になっています。

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 

 

「今ね、ちょうどホテルにチェックインしてくつろぎモードに入ってたところ」

[そうなんや、ということは天海さんは今そこにおらんってことやな]

「うん、ホテルの最上階にスパがあるからって楽しそうな顔してノリノリで行ったよ」

[へぇー、意外と女子チックな可愛い面があるんやね。天海さん見直したわ〜]

 戸田は好きな人の顔を浮かべて頬を緩めているのだろうと電話越しでも分かる。

「それからね、顔を覗き込んで頭撫でてくれたんだ〜、優しくて素敵な人だと思ったよ」

[クワーッ!うちがおらんところでガッちゃんを撫でて懐かせるとは許すまじ…]

 頬を緩めていたのに唇を尖らせて怒った声色で本当に喜怒哀楽が分かりやすい人だと思う。

「もーう怒らないの」

[にひひっ冗談やって]

「よかった…トッティーの声聞くとやっぱ安心する」

[うちもガッちゃんの声聞くと安心するから、両想いやね]

「えー、天海さんとお付き合いしてるからわたしの片想いだし!」

[それはそれやから、結衣っ結衣〜愛してるよー♡]

 それじゃあ愛未みたいだと言って二人で笑い合い、戸田の声を聞くだけで心から安心して癒されるのだと、電話越しではあるけど実感しているのだった。

「あのさ…」

[ん、どしたの?]

トッティーはいつも苦手だと思う人を追い払ってくれてたんだなぁと思って…」

[…そっちでなんかあったの?]

「ううん、天海さんが居てくれたから大丈夫だった」

[………そっか、それならよかった]

 戸田の声色が低くなり、心なしか気落ちしているように聞こえた。

「ねえトッティー…」

[うん?]

「早くトッティーに…」

 会いたいと伝えようとしたところで天海さんが部屋の中へと戻って来た為、伝えたかった言葉が途切れてしまう。

「ふーん…誰と電話してるのか当ててあげようか?」

「当てるも何も、入って来た辺りで名前を聞いていたんじゃないですか?」

[鬼上司が戻って来たんやね]

「戸田がどうせ鬼上司とか言ってるんでしょう」

 さすが天海さんは鋭い!苦笑いしてしまった。

[うわぁ何でバレてんの?!]

「ほらかしなさい、コラ! 何で恋人より先に親友に電話してるのよ、寂しいでしょうが」

[だって、一緒に連れて行ってくれへんかったやないですか!]

「予算の範囲内だと部下一人しか連れて行けないに決まってるから」

[部長なんやからポケットマネーで連れてってくれてもいいのに…あー寂しい]

「……またゆっくりどこか連れて行ってあげるから許してよ…」

 天海さんは珍しくおとなしげな声で謝っているのが印象的だった。

[……天海さん、ガッちゃんを抱いたら許しませんからね!]

「あんたねぇ…恋人以外抱くわけないでしょ!」

 何で一瞬でそういう話に変わってしまうのか、戸田の頭の中がどうなってるのか気になってしまうのである。

「新垣ごめん、ちょっとだけコレ借りてくわね」

「あ、はいどうぞ」

 片手でごめんと合図を送る天海さんに反射的にどうぞと返事をしていた。

 

 二枚目のカードキーを片手に部屋から出て行く天海さんを見送り、わたしは息をフッと吐いて体をベッドの上に横たえて目を閉じた。

 

(早く会いたいって言ったらトッティーは喜んでくれるのかな…それとも、天海さんが新幹線の中で話してた寝言の相手に一番逢いたいと思っているのかなぁ…)

 

 わたしの知らない戸田がいると考えただけで、胸がズキズキと痛みを覚えて疼いてしまうのはどうしてだろう?

 入社する前から直ぐ横で見てきた相手だから、あなたのことは何でも分かると思い込んでいただけなのかもしれない…

 天海さんでもわたしでもないもう一人大きな存在がいるのだとしたら一体誰なのか、先輩同期後輩まで何人か思考してみるも自分の知る範囲では思い至らなかった。

 

 再びガチャッとカードキーが開いた音がして、天海さんが入室してくるとわたしに手早くスマホを渡してくれた。

 

「しばらく借りてしまってごめんね。この子、新垣と話したいんだって」

「あっはい、代わります…もしもし、トッティー話ってなーに?」

[ガッちゃん、あのね…わたしも会いたいと思ってるから! それだけ言いたかったの]

「…うん、ありがとう。ゆっくり休むんだよ、じゃあ切るね」

[ガッちゃんも早く寝てな、天海さんに背を向けて寝るんだよ、わかった?]

「クスクスッ、なにそれ〜まあいいや。おやすみなさい」

[おやすみなさい、またね]

 通話を切ってベッドから立ち上がり、スマホを充電器に挿して入浴しに行く準備を始めた。

 

「新垣、1つだけ込み入った質問してもいい?」

「はい、何でしょう?」

 わたしは旅行バッグから手を離して、ベッドの淵に座る天海さんの方へと体を向けた。

 天海さんは少し言いあぐねた様子で口ごもりながらわたしに問いかけてきた。

「…あなたの一番好きな相手は恵梨香なの…?」

「・・・・」

 

 わたしの知らない戸田がいるように、わたし自身が知らない間にもう1つ愛しい想いを抱えていることに最近気付いてしまったと言うべきなのか…

 今でも胸に強く残るあの子の言葉が頭に浮かんで来るのだった。