ハッピーバースデーディア美月ちゃん (前編)

ハッピーバースデーディア美月ちゃん (前編)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

*予想よりも長くなってしまった為、後編に続きます。

 


 今日は朝から立て込んだ仕事もなくてお昼休憩ものんびりと過ごしていた筈なのに、このあと不運な状況に巻き込まれてしまうとはその時は考えもしなかった。

 

 社食のテーブルの対面した目の前には、顔を緩ませた呑気な同期がいる。

 

「美月〜〜っあけおめことよろ!」

「………あー今日のオムライス卵ふわふわで好きやわ」

「そこはもう6月やろ!ってツッコミ入れるところやんか」

「うん、ことよろ」

 ツッコミを入れずにボケてあげると華はちゃうねんっという表情で悔しそうに唸った。

「いきなり新年のご挨拶して今日は何か社内行事でもあったっけ?」

「社内行事じゃなくて、今日は愛しのわたしの嫁の美月ちゃんのお誕生日だから…ウフッ♡」

「いや、あんたの嫁ちゃうし、セクシーポーズされても微妙やからやめて」

 この同期は時々わたしを誘ってくるような言動をしてくるから本心が分かりかねる。

「ごほん、それではうちの愛しの美月ちゃんに今からお祝いの歌を歌おうと思います」

「はい? そんなんここやと恥ずかしいからイヤやし」

 なんと華は社食のど真ん中で恥ずかしげも無くHappy Birthday to Youを歌い始めてしまった。

「ハッピーバースデートゥユー♪

ハッピーバースデートゥユ〜♪

ハッピーバースデーディア美月ちゃ〜〜ん♪

ハッピーバースデートゥユー♪」

 歌い終えて拍手を始めた華と同調するように、周りで食事をしていた数人の同僚や偶々居合わせている同期や後輩から、近くで食事中だった比嘉さんと新垣さんまで盛り上がって拍手してくれているのが見えたので、大変恥ずかしくも嬉しくて偶にはこういうのも悪くないなと思った。

「美月おめでとう! これうちからの愛のプレゼントフォーユー」

「イェーイ、美月ちゃんおめでとう! わたしと結衣と同じ6月生まれなんだねー」

「わ〜っ、谷村さんおめでとう! 6月生まれを集めて合同お祝い会しようね〜」

「ありがとう華、ありがとうございます比嘉さん、新垣さん、皆さんにお祝いしてもらえて嬉しくてわたし幸せ者です」

 照れながら頭をぺこりと下げて笑顔で御礼を言った。

 

 新垣さんの隣にいつも居るはずのあの人がいないのが少し気になり、スマホをいじってみてもメッセージすら何も入っていなかった。

 今日は夜に会う約束を以前からしてあったのだが、前日も当日も一切連絡が無くあの約束はもしかしたら彼女の一時的な気まぐれだったのかもしれないと悪い方に考えてしまい、切なくなって思わず涙が込み上げて溢れたが、直ぐに腕で拭い笑顔で誰にでもバレないよう取り繕うのだった。

「あっ…美月、どうかしたん?」

「ううん、サプライズで祝ってくれたからビビったわ。プレゼント開けてもいい?」

「プレゼント何々〜?」

「華ちゃんのことだから多分際どそうな予感がする」

 比嘉さんと新垣さんも華からのプレゼントが気になるのか、興味津々にわたしの後ろから覗き込んでいる。

「どれどれ…おおっ、何で体重計? 愛が重いにかけてるん?」

「これ食べたら太る? とか、最近お肉付いてへんよね? とか、よううちに聞いとったからプレゼントに選んでみたんよ」

「おおっ、このヘルスメーターは体重計、体組成計、体脂肪計がスマホと連動できるタイプの結構いいやつじゃない」

「さすが愛未は色々習ってるから詳しいよねー」

「…ありがとう、これ使ってスリムボディをゲットするね」

 女子に体重計をプレゼントするとは乙女心的には複雑だけど、自宅にあるやつは最近古くなってきたから替え時のちょうどいいタイミングで、ありがたく使わせてもらうことにしよう。

 

 そして、お祝いしてくれた皆さんにもう一度感謝の言葉を伝えて、社食を後にしてオフィスへと戻った直後に悪い知らせが入って来たのである。

 

 なぜだかわからないが、ざわざわと慌ただしいオフィスは昼までのゆったりとした様子とは違っていて戸惑ってしまう。

「谷村さん、ちょっと来てもらえる?」

「はい、何だか随分とオフィスが騒がしいですが、どうしました?」

「それが、外回りしてた営業マンの二人が交通事故に巻き込まれた…と今さっき連絡が来て、これから搬送先の病院にわたしと室長が様子を見に行くことになったの」

「ええっ!それは大変じゃないですか…」

「そこで、わたしの仕事を覚えているあなたにいくつかヘルプをお願いしようと考えてるんだけど、任せてもいいかしら?」

 

 今日はわたしの誕生日だから、できればお断りしたい…

 でも、困った時はお互いに協力することも大事であり、会社員としてはそう簡単には断れないから暫し悩んでしまうのである。