魔女の鮮血~矢代の激昂~⑩

魔女の鮮血~矢代の激昂~⑩

 


*前回更新から8か月ぶりになりましたが、続きがようやく書けたのでよろしくお願いします。

*現在のところ原作にだけ設定がある鳴海さんの妹が出てきます。

 


 給血を終えてからどれくらいの間眠っていたのだろうか。

 室内の時計を見ると、残り三十分もすれば翌日になってしまう時刻になっているのが確認できた。

 瞼をきちんと開いて周囲を確認すると、男性の看護師がカルテのような物に何か記入している姿を見て、自分が目覚めたことを知らせた。

 

「あの、すみませんが鳴海先輩の容体はどうなってるかわかりますか…?」

「矢代さん、目が覚めたんですね。患者さんでしたら、とりあえず脈と呼吸は回復して、現在は患部付近の手術中だと報告を受けていますよ」

「脈と呼吸が回復したということは、山は越えたってことなんすか? 詳しく教えてください…!」

 

 体をガバッと起こして看護師に詰め寄るように問いただしてしまう。

 

「矢代さん落ち着いてください」

 

 先程自分の手のひらの治療を施してくれた田丸先生が入室し、わたしが寝かされていたベッドへと駆け寄ってくると、落ち着くように宥められた。

 

「すみません…理沙さんは助かるんすよね…?」

「まだ油断はできませんが、脈と呼吸が回復したら止血機能を回復させるために一段階踏んだあとに態勢を立て直して手術を再開するという二段階の手術を行っているとちょうど聞いてきたので、容態はだいぶ安定していると思われます」

「そっかぁ…あとは先輩の頑張り次第なんですね…よかった。もう起きて歩いても大丈夫っすか?」

「矢代さんは少々給血しても図太そうなので大丈夫そうですね」

 

 苦笑いしている田丸先生にどうぞと言われ、診察台から降りて靴を履くと集中治療室に通じる待合室まで田丸先生と共に並んで歩いて行く。

 

「矢代さんが休まれている間に鳴海さんのご家族の方と仕事先に連絡したんですが、あなた刑事さんだったんですね」

「な、何でバレてるんすか!?」

「鳴海さんの上司の係長さんがSPとはよく言ったものだねぇと感心した後にきちんと教えてくださいましたよ。もうそろそろこの東光大学病院に到着している頃だと思います」

「そうなんすね…うわぁー、しまったーーっ!!財津さんと草加さんへの連絡をすっかり忘れていたぁああ!」

 

 待合室の手前まで着くと、既に到着して座っていた草加さんが直ぐに気がつき顔を上げてこちらへとズカズカやって来て肩をガシッと捕まえていた。

 

「矢代は無事だったんだな? その患者衣はどういう状況なんだ?」

「自分は先輩に助けられたんですが…この格好は先輩への給血をして来たんで着てるんすよ」

「とりあえずお前は無事でよかった…あとは鳴海が助かってくれればいいんだが…」

「すみません…自分が先輩を巻き込む形になり、まさかこんな事になるなんて…本当にすみませんでした!」

「矢代くんと鳴海くんの現場対応に関しては言及される点は多々あるけども、被害者複数名の応急処置を施してくれたおかげで現状は死者が出なかった部分は本当によくやってくれたと思うよ」

 

 財津さんもわたしの傍までやって来て労いの言葉を掛けてくれたので、肩の荷がおりたような、ほんの少しだけ気分が楽になった。

 

 そのあと田丸先生は入院治療中の患者の治療対応へと戻り、待合室にはわたしと草加さんと財津さんと、それから鳴海先輩の妹さんが駆けつけてくれて、わたしは彼女の傍で安心させるように時々優しく声をかけながら手術の経過を待つ時間がしばらくの間続いた。

 

  院内の時計の秒針を刻む音と各人がそれぞれに溜息をつく音だけがやけに大きく聞こえるような気がする。

 それは、先輩の憂鬱そうな溜息を事件に巻き込まれる直前に聞いたから、余計に耳についてしまうのかもしれないし、向こう見ずで無鉄砲な自分に対する呆れや失望、もしくは、お前があの場に連れてさえ行かなければこんなことにはならなかったんだと批難する心境が少なからず含まれているのだろうと察した。

 

「先輩は…理沙さんはあなたを残してはいけないと言ってくれたんです…いつも無茶ばかりして突っ走ってしまう自分を決して見捨てない…皮肉ばかりで可愛げがない時もあったりしますが…大事に思っているのに…本当に申し訳ありません」

「矢代さんのことは姉から時々聞いていたので知っていますよ。多分なんですが、姉もあなたのことを大事に思っているから必死になって守りたかったんだと思います」

 

 先輩の妹さんは家族に刑事がいる以上、死と隣り合わせの身の危険を踏まえた上での職務なんだとよく聞いていましたから…と言う話を聞いたわたしは涙腺が緩み、今まですっかり忘れていたかのように大粒の涙が溢れ落ち、太ももを濡らしているのすら今のわたしには気にも止められないくらい号泣してしまうのだから。

 


 理沙さんどうかお願いだから、あなたを守るという約束をもう一度叶えさせてください…

 

 

…続く。