球場の売り子さんの白石さん (番外編 ①)

球場の売り子さんの白石さん (番外編①)

(ひが+みつ)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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 昼食の時間、社食で我が同期に両手を合わせて今晩の用事を頼み込んでいる旦那さんを見ながら唐揚げを一つもぐもぐ食べる。

「黒木さんどうかこのとおりお願いします! あなたしか嫁を安全に預けられる適任者はいないのですよ…」

「うち、今晩予定があるから無理ですって」

「そこを何とかぁあ! 金一封も付けるよ! ドャァ」

「いや、お金渡されても困りますし….」

「何を渡せば予定を変更してくれるのでしょうか?? 高級時計? 車? もしやわたしの肉体? うっふん♡」

 腰を斜めにひねって片目をウインクさせて華にラブ光線を飛ばしている旦那さん。

 冗談だとはわかっていてもヤキモチを妬いてしまうのは少々悔しい。

「むーっ恵梨香さん、最後のは本気で言うてんのですか…?」

「あは〜ん、冗談に決まってるやん。わたしのカラダは美月ちゃんだけのモノやで♡」

「あのう、お二人のイチャラブを見せつけに来てるんですか?」

 ハッとして本来の目的を思い出した恵梨香さんは、今度は上体を腰から45度前へ傾けて頼み込んでいた。

「どうかうちの嫁と今晩のご予定をよろしくお願いしまぁぁぁす!!」

 どこかで見たような懐かしい光景だと感じた。

 そこへ、満面笑顔の比嘉さんが片手をハイッと上げて志願してきた。

「わたし、今晩ばっちり予定空いてるよー、えへへっ」

「まなみは絶ーーーーっっ対にダメ!!!」

「うちは構いませんよ、よろしくお願いします」

「美月ちゃんありがとうハグッぎゅー♡」

「いやぁああああああ!!!」

 


 というわけで、総務部総動員の予定が急遽入ってしまった恵梨香さんの代行として比嘉さんと一緒にやって来た場所といえば…


「わ〜〜久しぶりの野球観戦だし、球場やっぱ広いねー!ここだと踊り放題歌い放題出来るよね♪」

「恥ずかしいのでお願いですから踊らないでくださいね」

「わたしもさすがに恥ずかしいからやらないよ、大丈夫任せて」

 恵梨香さんより目線を高く上げて見る比嘉さんの瞳はパッチリ大きくクリッとしていて、見つめ続けたら吸い込まれてしまいそうだと思った。

「どしたの〜?」

「あ、いえ…大きくて綺麗な瞳だなと思って…見入ってしまってすみません」

「キュンかわ♡ はぁああん美月ちゃん可愛いねえ、恵梨香じゃなくてお姉さんの嫁に来ちゃいなよ」

「すみませんがそれは遠慮しておきます」

 わたしが即答でお断りをすると、それは残念〜と言って、のほほんと微笑む比嘉さんにわたしもつられてふわっと笑顔になった。


 球場内で購入したお弁当を二人で食べている途中、スタンドを歩き回っている売り子さんが目に入ってきた。

「生ビールいかがですか〜?」

「美月ちゃんもビール飲む?」

「はい、では一杯頂きます」

「オーケーよん、お姉さんこっちお願いしまっ……ふおおおっっ!!」

「どしたんですか…ほああっ?!」

「お待たせしました、って、冴島さん!!?」

 わたし達の目の前にやって来た売り子さんは、なんと驚くことに新垣さんと生き写しというほどそっくりな人で、驚愕したリアクションで席横に立ち止まっていたのである。

「彼女、結衣に激似だよね、ねっ、美月ちゃんも見てる? 見てる?」

「あががが〜ちゃんと見てますから〜体ガクガク揺さぶらないでください〜」

「冴島さんって瓜二つな双子のお姉さんか妹さんがいたんだ…」

 比嘉さんに一頻り体を揺さぶられた後、売り子さんの名札をよく見ると、しらいしと書いてあり、比嘉さんと白石さんは見つめ合ったままお互いしばらく固まっているのだった。

「お姉さんお綺麗ですね、生ビール二つお願いします」

「あっはい、ありがとうございます」

 惚れ惚れした顔で売り子さんの白石さんにお熱な視線を向けている比嘉さんに代わって、ビールを二つ注文した。

「お客さんがわたしの友人の売り子さんに激似だったので驚いてしまいました」

「実はうちの恋人の親友もお姉さんにそっくりで、こちらこそ驚いて挙動がおかしくなってしまいました」

「そうなんですね〜、はい、まずお一つどうぞ」

 ありがとうございますと言って受け取ると、もう一つ注ぎ始めた。

「あああっあの、あの、つかぬ事をお尋ねしますが…」

 比嘉さんが自爆するカウントダウンが始まってしまった…

「はいっなんでしょう?」

 ビールを注ぎ終えて比嘉さんに手渡す白石さんはニコニコと可愛い笑顔で、新垣さんのことも大好きな恵梨香さんがここにいなくて少しホッとしている自分がいる。

「しらいしさん…(ドキドキ)」

「はい…(何だか乙女な冴島さんを見てるみたいだ)」

 あっ恵梨香さんからメッセージが来た…ご心配しなくても通常通りの比嘉さんですよ…と返信…

「わたしをし、ししし…しらいしさんのお嫁さんにしてください!!」

 比嘉さんは8回も''し''と言ったな…と思わず指折り数えてしまった。

「お気持ちは嬉しいのですが…ごめんなさい! わたし、可愛い恋人がいるので…」

「ぁぅぅ…やっぱいますよねぇ…ガクリッ…」

 こういう時は恵梨香さんだったら壮大なツッコミを入れるだろうと考え、わたしも励ましの言葉を掛けた。

「あーあー、テステス、ごほん…まなみーにはガッちゃんとうちがおるやろー! なんくるないさー(なんとかなるさ)」

「わははっありがとう、恵梨香みたいな美月ちゃん!! うちら結婚しよなー! カンパーイ♪」

「立ち直り早すぎ!! …あの、うちの先輩が色々とすみませんでした。ビールの代金どうぞ」

「いえいえ、お気になさらず。ありがとうございます〜またお願いします」

 

 小さく手を振りながら去っていく白石さんを、その後も近くを通るたびに呼び止めては生ビールを注文してお金を落としてくれる良客な比嘉さんとわたしでした。