続々々・その出張、異議あり!(パラレルオフィスラブ)

続々々・その出張、異議あり!(パラレルオフィスラブ)

 

 

*本編から半年くらい前へと遡った内容になっています。

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 


 出張1日目の朝方、わたしは上司の天海さんとTokyo Stationで待ち合わせの為、早目に到着していた。

 出張の同行に異議を唱えていた戸田は、出発の前日もいつもと変わらず明るく仕事をこなしていた上、お土産はりく○ーおじさんの焼きたてチーズケーキとエシレのオムレット・ブールが欲しいと言われたので、ついてくるのは諦めたのだと察した途端に寂しいのだと感じて、自分の気持ちながら勝手なもんだなと溜め息を一つ吐いた。

 

「おはよう新垣、溜め息一つ吐くと幸せが一つ逃げるって本当だと思う?」

「おはようございます天海さん、本当かどうかはその人の気持ち次第だとは思いますが…」

「ま、そうとも言えるか。わたしなんて年中嘆息を漏らしてる身なんだもん、幸せ逃げ放題じゃないの」

「総務部長は責任度合いも高くて大変な立場だとお察ししています」

「新垣は分かってくれてるのね。…あの子もあなたみたいに察しが良くて口ごたえしなかったら、もう少し相性が良かったんだろうね…」

 

 天海さんは複雑さと愛おしさを多大に抱えている様子で、おそらく見つめる先には簡単には振り返らない戸田の背後を映しているかのようだとわたしには感じ取れた。

 

「そろそろ新幹線が到着しそうですよ」

「今回行きはグリーン車だからゆっくり寝られそうね」

「わたしは寝ていられませんよ」

「あらー、わたし淑女だから寝込みなんて襲わないわよ〜」

「そういう意味ではないのですが…総務部長であるあなたに襲われる心配なんてしてませんよ。ねっ、天海さん」

「はいはい、わかってますって」

 

 危険なワードが出て来たら先んじて牽制しておく方がいいというのは、誰から教わったのだろうかと相手は思い出せないが、その時戸田も一緒に教わったことだけはよく記憶している。

 天海さんと新幹線に乗り込み、横並びでゆったりと座り、取り留めない世間話をしながら目的地へと旅立って行くのだった。

 窓側の席に座り、富士山の稜線の美しさを感じ惚れ惚れと見入っているわたしに、天海さんは珍しく躊躇いが幾分か含んだ声色で話し掛けてきた。

 

「…あのさ、新垣…変なこと聞いてもいい?」

「構いませんが、どうしました?」

「…あなたは恵梨香の寝言って聞いたことある…?」

「そうですねぇ…お泊り会は比嘉も含めて時々してはいますが、わたしはいつも戸田より就寝が早いので聞いたことがありませんね」

「ああ、そうなのね…」

「あの子何か変なことでも言ってたんですか?」

「…わたしの場合お酒が入ってることが多いから、もしかしたらそんなのとは違うのかもしれないんだけど…」

「天海さん、お願いします! 詳しく教えてください」

「…あくまでも寝言だし、直接本人に聞いてないから憶測でしかないと先に言っておくけど、恵梨香の前の恋人の名前を呼んで魘されているみたいなのよ…」

 

 わたしが知らない戸田が過去に存在しているのは当然の話ではある。

 しかし、ここ最近までお互いに恋愛の話も特別な相談をすることも無かったし、天海さんとお付き合いする前に誰かと付き合っていたという影すら見えなかったのは一体何故なのだろう。

 

「戸田からは何も聞いてませんが、それにしても彼氏がいたんだったら恐らく惚気てくるような気もしますが…」

「…親友であるあなたや比嘉さんにも一切話さなかったという事は、イコール、隠し通すべき相手だったってことよ」

「水くさいなぁ…わたしには何でも話してくれていると思っていたんですが、そうじゃなかったんですね…」

「戸田の相手だった人物が相当賢くて、信用に値する近親者にすら話さないようにと口止めをしていたんだと考えたら、今更悩んだり気にする必要はないと思うわ」

 

 自分にも言い聞かせている様な口ぶりだった天海さんは、もう寝るから京都辺りで起こして…と言って口を結んで横を向き早々と寝てしまった。

 

 旅行鞄の中に入ってついてきたものは、わたしが知らない戸田の過去で、寝言で呼んでしまうくらい大きな存在だった相手の影が未だに消えていないのではないのかと、ぼんやりと思ったのである。