巡り逢えた時から魔法が解けない恋する乙女

巡り逢えた時から魔法が解けない恋する乙女

(とだみつ)

 


*本編から過去へと遡った内容になっています。

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 


 最優秀評価で入社、未来を担う会社切ってのホープ、頭脳明晰の冷静沈着で近寄りがたい存在、そんな他人の評価だけが先を歩く彼女は孤高の存在で、誰とも群れることを好んではいない。

…そんなこと、自分から一度も言ったことなんてないのに、噂話は日を追うごとに歪に膨れ上がっていく。

 同期からはあからさまに避けられ、複数の上司からも疎まれて、自分の居場所なんてどこにも無かったのが入社当時のわたしだった。


 どうにかして居場所が欲しくて、部署内では周囲の同僚や上司に気を配りながら印象を良くするため愛想よく仕事しようと努力した。

 日常的に話ができる友人が欲しくて社内交流イベントにも極力参加した。

 その並々ならぬ努力も虚しく、わたしを知らぬ者はいないとばかりに噂の的にされ、上層部の高評価から疎まれる存在でしかないのが突き付けられた現実だったのだ。


 入社からまだ半年と経たないが、人間関係の構築が全く上手くいっていなかったわたしは、その日、好転機が訪れるとは全く予想しておらず、戸惑いと困惑と極度の緊張で第一印象など自分の中では最悪だったと記憶している。

 

 わたしの人生を好転機に変えてくれた唯一無二の存在…

 

 毎回失敗でも懲りずに参加していた社内交流イベントで、わたしはその人と運命的な出逢いを果たしたのであった。

 

 社内交流イベント会場として併設されている会社の大型ホール室にて、わたしはホール室中央寄りの壁際に置いてある休憩用の椅子に座り、オレンジジュースをちびちびと飲んで時間を持て余していると、比較的背が高めでロングヘアをくるりとアレンジしてヘアクリップで留めているオシャレな女性に声を掛けられた。

 

「君かわええなぁ、めっちゃうちの好みや!」

「…へっ? えっと…あの〜…誰かと間違えているんじゃないですか?」

「いやいや、間違いなくうちが今声掛けているのは目の前の君しかおらんのやけど」

「は、はあ…それはどうもありがとうございます…で、いいんでしょうか?」

「んー? いいも何もわからんけど、とりあえず隣の席座ってもええかな?」

「あ、はい…どうぞ」

「おおきに〜! 早速やけど、あなたの名前は谷村 美月ちゃんで合ってるやんね?」

「はい…恐らく上層部の高評価からの特別待遇やら誰とも群れることを好んではいないというおかしな噂話から変に有名人だと思いますが…」

「へぇー、そんな噂話があるんか〜ちっとも知らんかったわ。噂話とかええ話しか耳と記憶に残らんし、うちが同期から聞いたんは、食品経営企画部におっとりして可愛らしい関西人の子がいるみたいだよ! やから、どんな子なんやろなぁと会って話しできるのを楽しみに仕事してきたんよ」

 

 聞いてもいないことをどんどん話してくるのは関西人特有の調子の良さなのだろうか?

 わたしの隣の席に座り、体ごときちんとこちらに向けて、両目をしっかりと見て話してくれるから普段以上に緊張しているし、今までこの会社で出会った人物でここまで興味と関心を持って話してくれる人物は上司の鈴木課長と目の前のお姉さんだけなのだ。

 

「楽しみにされるような人間ではないので恐縮ですが…そ、その関西弁は仕事中もプライベートでも変わらず使われているのですか?」

「せやで〜。とは言っても、家族からはもちろんのこと、うちを入社時から教育してくれた先輩や上司からも一日も早く標準語使えるように努めなさい!って年中言われとってー、そやから言語矯正の個別指導をこっそりと受けてたりはするんやけどな」

「ぷっ、あははは! 標準語が使えるようになるのに個別指導受けて努めないとあかんとか、あなためっちゃ面白い人なんやね〜」

 

 年上で先輩であることは間違いないのに、同郷の言葉使いから気が緩んでいるのか、思わず吹いて高らかに笑って敬語無しで話してしまった。

 後輩に失礼な口の利き方をされた筈なのに、この人は怒るどころか満足そうにうなづいて嬉しそうな笑みを浮かべながら頭をそっと撫でてくれた。

 

「やっと笑ってくれたね…谷村さんの可愛い笑顔が見られたから、今日はこの場に来られて本当に良かった」

 

 その嬉しさが溢れる笑顔を見た瞬間、胸がドクンと高鳴って頬に熱が溜まってくるのがどうにも止められなくて、今まで経験したことがないくらい手脚が震えてしまい、その後何を話したのか逆上せてしまった頭では、名前と彼女に連絡する時間くらいしか記憶に残ってくれなかったのだった。


「あなたのお名前を教えてもらってもよかったですか…?」

「もちろん! うちの名前は戸田 恵梨香といいます。めっちゃ可愛い名前やからパパッと覚えやすいでしょ?」

「戸田 恵梨香さんですね…はい、パパッと記憶にインプットしました」

「宜しい、んじゃ気楽に戸田ちゃん呼んでくれたらええから、はいコレ名刺ね…あとプライベートのケータイ番号も書いておいたんで、今夜の20時以降ならいつでも掛けてきてくれてオーケーだから是非ともヨロシクね〜」

「えっ、あの…ええっ!!?」

 

 運命的に巡り逢えた、愛して止まないかけがえのない特別な人になる、恵梨香さんとの繋がりが出来たという記念の日になるのでした。