球場の売り子さんとして働く白緋冴の小話 (その2)

球場の売り子さんとして働く白緋冴の小話 (その2)

 


*野球観戦時の合間に書けたら載せるという、余裕がある時だけの(パラレル)白緋冴のSS。

*ここの白緋はすでにデキております。

*キャラクターがドラマの設定上から若干外れていたらすみませんと先にお詫びしておきます。

 


「ビール〜おつまみいかがですかー? はい、すぐ行きまーす」

 緋山さんと白石さんとは前職場から同期で働いている冴島さんは、今日も着々と売り上げを伸ばす為に迅速に動いていた。

 彼女は他の売り子と同様に闇雲に売りに回るのではなく、オペラグラスを使用して観客が手に持つカップのアルコール残量を確認後にその付近へと売りに素早く移動して呼び込みを誘う、そんな頭脳派なタイプなのである。

「はいこちらお釣りです。いつもありがとうございます、またお願いしますね(ニコッ)」

 沖縄系統の美人である彼女の控えめな笑顔に落ちるお客さんもかなり多いらしい。

 そんな彼女の近くを通りかかった緋山さんが、ま〜たあいつの計算高い笑顔に男性二人も落ちてるよ…と呆れ顔のジト目で見つめていた。

「冴島さんってさ」

「わっ! 白石いつの間に隣に!?」

「いつも淡々としてるのに、売り上げは売り子の中では毎回トップクラスで高いのが疑問なんだよねー」

「あー、あいつはコアな常連ファンが多いタイプで策士な奴なの」

「ふーん、よく知ってるね」

「こっちが脚で売り歩いてる中、あいつってばピンポイントにショートカットでお客さんをかっさらっていくんだよ。やってらんないわよ、まったくもう!」

「へぇー、意外と緋山さんも対抗意識が強いんだね」

「ふんっ、あいつには負けられない理由があるの…」

「…ん? 理由ってなんだろう??」

 現在のところ緋山さんがこの仕事に入れ込んでいるのは、売り子さんの中でシーズン中に1番2番で売り上げた者の順に特別ボーナスが支給されるので、そのトップの座を狙っているのが一つの理由なのである。

 それと、そのボーナスを無事にゲット出来たら大好きな彼女にクリスマスプレゼントとして、クリスマスのデート旅行とブランドコートを買ってあげるという、個人的な理由の方が大きな要因なのだ。

「べっ、別に大した理由じゃないから…んじゃあたし仕事戻るわ」

 緋山さんは頬をほんのり赤らめてプイッと白石さんから顔を逸らしてスタスタと仕事に戻ってしまった。

 緋山さんが頑張る理由を知らない白石さんは、自分と目を合わせようとしないで恥ずかしそうに去っていく背中を見送ったが、何か気に障ったことでも言ってしまったのかと不安に思うのだった。

「何だろう? 変な緋山さん…」

 白石さんもお客さんに呼ばれてチュウハイの大量注文を受け、和かにテキパキと対応していった。


 冴島さんがスタッフ・関係者入り口の中へと入り裏の控え室まで戻ると、緋山さんが観客動員総数のチェックをしながらため息をついた姿を見逃さず、すかさず声を掛けた。

「そんなところでモタモタしていたら、本日分もわたしが1番になりますよ」

「わっ!冴島いたんだ…はいはい、言われなくても今から戻りますよっと、ガンバレあたし〜!」

「あの、言っときますけど、現在のトップは白石さんなのは分かっていますよね…?」

 緋山さんは冴島さんに背を向けて歩き出していたが、ピタリと足を止めて振り向いた表情は眉をひそめて不愉快さを露わに冴島さんを見据えた。

「んなこと毎回チェックしてるから分かってるわよ! だから、あたしが1番取って白石に緋山さん頑張ったね!って褒められたいし、あんたに負けて旅行の誘いを取られるわけにはいかないんだから…」

「わたしに取られる心配をするなんて、随分と余裕がない恋をしているんですね…」

「はあ? あんたの憐れむ顔なんて鬱陶しいし要らない! それに、白石じゃなくて売り上げを取られる心配しかしてないからね!!」

 緋山さんは不機嫌さを顔に貼り付けたまま控え室から出て行ってしまった。

 

「余裕がないのは…わたしもなんですけど…ね……

白石さん、どうしたらわたしはあなたの隣に並べるの…?」

 控え室でぽつりと呟いた問いに答えてくれる人などいない…冴島さんの独り言は騒がしいスタンドの声援の中へと溶けていくのだった。

 


次回の野球観戦時に続く…