切っても切り離せないあなたとの絆

切っても切り離せないあなたとの絆

(きょ+みつ)

 

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

*恋愛関係とはまた違った愛情もあるのかな…という二人の繋がりと距離感を書いてみました。

*上司と部下の関係の中だと、お気に入りのお二人です。

 


 あの年末年始の集まりで、わたしの心の機微を察している人物が実はもう一人だけいたのである…

 

「…波瑠ちゃん…どうしてなの…胸がズキズキ痛くて苦しいよ……ごほっ、ごほっ…ぅぅ…」

 許容量を超えて飲んでいることを知られたくなかった為、お手洗いに行くフリをしてやって来た洗面台に両手を付き、前のめりの姿勢で軽く嘔吐していたところ、その人物が気遣うように声を掛けて来たのだった。

「谷村さん大丈夫…? 少し飲み過ぎじゃないのかしら?」

 背中に手を当てて優しく摩ってくれているのは、憎き恋のライバルであり、愛しき上司の京香さんだ。

「…ごほっ…これくらいじゃあ飲んでるうちに入りませんよ…放っておいてください」

「…あなたがあれだけ飲むのは今まで見たことがないもの、心配になるわよ」

「ふーん…ライバルも心配してくれるんですねー。馬鹿みたいにお優しい方でホント嫌になりますよ…」

「・・・・」

 わたしが憎まれ口を聞いても来た時と変わらず心配そうな顔でわたしを見続けている京香さんは本当に優しい人で、どんなに憎くてもその人柄を嫌いになれるわけがないのだと思った。

「波瑠ちゃんに全く相手にされていないわたしはいい気味でしょう?」

 自分で自分を嘲笑う…

「そんなことは思ってない…わたしもまだ受け止めきれていないもの…あなたの複雑な想いも理解出来るわ」

 その優しさが余計に自分を惨めにさせてしまうから…

「あなたからの同情なんて一切いりませんから!!」

 八つ当たりするわたしは…

「あのね、谷村さん、わたしはあなたと敵対したいわけではないのよ…!」

 なんてカッコ悪いんだろう…

「わたしだって…! わたしだって…ずっと可愛がってもらって指導してくださっているあなたと敵対するのは、本当のことを言えば心苦しいんです…」

「苦しくさせてしまってごめんなさい…」

「謝らないでください、惨めになるだけですから…」

 突き放そうにも一歩ずつ歩んで来て無防備な姿で心を捕らえてくる、そんな律儀な人なのだと知っている。

「あなたは営業部の中でも一番と言ってもいいくらい可愛い部下で、手の焼く部下でもあるけど、いつも心配している…わたしにとって大事な愛娘みたいだと思っているのよ…」

 京香さんに頭を撫でられ、そっと抱き寄せられた。

 どうしてこんな可愛げのない人間にも優しいのか理解に苦しむ。

「京香さん…わたしもあなたが…もう一人の母のような大事な人だと…ずっと思っています…」

「ありがとう、その言葉だけでも今年が終わるまでに聞けて良かった…」

 

 腕を回すことも、縋ることも出来なかった。

 放っておいて欲しいのに、心のどこかで心配しても欲しいと、チグハグな想いがあったりする。

 大嫌いだけど本当は大好き。

 だけど、そんなことは言わない、たぶん見透かされてる筈だから。

 だから、ほんのひと時だけ心を開いてありのままの自分を見せる。

「京香さん、あのね…」

「…うん、なぁに?」

「もう一人、すごく気になる人がいるの…」

「あ、もしかしてあの子のことかしら…?」

「うん、たぶんその人で合ってる…」

「見ていたわ……あの子の傍にいたいのね」

「うん、傍にいたら安心するんだ…でも、こんなのおかしいよね…」

「おかしくないわよ」

「どうして?」

「惹かれてしまうのはいつも偶然じゃなくて必然だもん」

「縋って泣いてわたしをいつまでも求めるように叫んでいたのに、何も言わず立ち去って、傷つけてしまったんだよ」

「時には好きな人を傷付けてしまうことだってあるわ」

「嫌われて忘れられたと思ってた」

「嫌われてないし、忘れられてないから隣に座っていたのよね」

「変な人でしょ」

「変じゃないわ」

「あの人のこと知ってるの?」

「ええ、最近でも時々あなたの姿をオフィスの外から覗きに見に来てたから」

「知らなかった」

「そうね、知らなかったでしょうね」

「わたしはいつも、波瑠ちゃんばかり見てたのかな」

「波瑠ちゃんばかり目で追っていたのは間違いないわよ」

「うん、間違いないね」

「気になる人だから見に来てしまうのよね」

「わたしも気になる人だから見に行ってもいい?」

「ええ、もちろんいいと思う」

「変じゃないかな?」

「変じゃないわ」

「そっか、それなら良かった」

「ええ、大丈夫よ」

 二人きりだと敬語を使わず、母親と会話する感覚で話しかけても怒られることもなく、本当は誰よりも距離が近しい存在でもあった。

「京香さん、いつも酷いことばかり言ってごめんね」

「こちらこそ、何もしてあげられなくてごめんね」

「ううん、心配してくれてありがとう」

「いえいえ、心配くらいはさせてちょうだい」

 ここで二人の距離を置き…

「…はい! どうもありがとうございます」

 わたしは再びいつもと同様である上司と部下の距離感に戻って頭を下げたら、皆さんが集うダイニングへと戻って行った…。