その人が気になったら一直線で会いに来て (中編)

その人が気になったら一直線で会いに来て (中編)

(がきりほ)

 


*本編の内容から外れた番外編になります。

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 

 

「よーし、ちゃっちゃとお仕事終わらせていきますよー!」

「里帆ちゃんが気合い入れて仕事するなんて珍しい…明日は雪かな」

「チッチッチ、紗季さん、今日のわたしは一味違うのです! ふんすっ」

「へぇー、里帆ちゃん誰とデートなの〜?」

「はい、あら…っ! 羊さんンンッ!!」

 紗季さんとお話してた筈なのに、いつの間にか羊さんが紗季さんを遮るように立っているではありませんか。

 それにしても…羊さんの軽い問いかけに上手いこと誘導されて新垣さんの名前が出かかってしまったのは危なかった。

「よ、羊さんには言いませんから…」

「えー、あたしという素敵な上司兼旦那様を放ったらかしにするなんて悲しいわ…シクシクシク…チラッ」

「いつからわたしの旦那様になったんですか??!」

「ん~、一昨日くらい?」

「ごほん、羊さんは冗談ばかり言ってないで、溜まってきている営業調査報告書の整理をお願いしますねー!」

 紗季さんのお叱りモードには羊さんも弱いらしく、珍しく縮こまった姿ではーい…と弱々しい返事をしてデスクへと戻っていった。どちらが上司なのか時々わからなくなるお二方だといつも思っている。

「紗季さんありがとうございます、助かりました」

「いいからいいから。それよりも、羊さんってプライベートにすぐ反応するアンテナでもあるんじゃないのかと思ってしまうよね…」

「確かに…あの、紗季さんはお相手を聞かないんですか?」

 デスクトップに目を向けて仕事をこなしているわたしを横目にクスッと笑った紗季さんは、気にはなるけどそんな野暮じゃないから安心していいよと優しい言葉かけてくれたのでした。

 

 それから、夕方の時刻を過ぎて外回りの仕事に出ていた同僚がオフィスへと戻って来たり、営業マンの報告を受けて明日の打ち合わせをする者が数名ほど見えたり、美容関連のサンプリングを持って来て手渡してくれる滝沢さんには「イケメンの高給マンをゲット出来るようにデート頑張ってきなさいね!」と励ましを受けて、苦笑いでわかりましたと返事をするしかないのだった。

 

 そして、刻々と時間ばかりが経過しているのに、仕事が未だに終わらないわたしは、このメディカル部内では最も要領が悪くお仕事が遅いと言われているのは悲しい事実なのです…

 (もうちょっとで19時になってしまう…お仕事まだまだかかるし、晩ご飯に行く時間も場所も何も決めてないから新垣さんはもう帰っちゃうよね…明日お詫びしに行かなきゃ…)

 気落ちしたわたしは、ボールペンを握る指の力が抜けてデスクの横の床へとポロッと落とし、慌てて椅子から立ち上がって取ろうとしたところに、鶴の一声が掛かったのである。

「里帆ちゃん、その計画書と資料の山を見せてみ……まあこれくらいなら一時間少々あれば終わるから、あたしに全部振るといいよ」

「え…でも…羊さんもご自分のお仕事があるんじゃ…」

「そんなの夕方までに終わってるに決まってるっしょ、このメディカル部の営業成績トップの人間を舐めてもらっちゃあ困るわね~」

「す、すみません…」

「…ほら、新垣さんならメディカル部階の休憩室で待ってるからすぐに行ってあげなさい…」

ボソボソと囁き声でわたしのデート相手の名前と居処まで教えてくれた羊さんの観察力に脱帽し、後ずさり気味にどうしてわかったのですかと小声で尋ねていた。

「この優れた嗅覚と記憶力で彼女の愛用してるフレグランスがわかったのよ…里帆ちゃんの背中一面からふわっと来たしさ。それに名前もぽろっと言いかけてたもんね」

 新垣さんに背中から抱きしめられたことを思い出し、顔からボンッと火が出るように真っ赤になったわたしの頭をポンと押してグリグリ撫でた羊さんは、後日デート報告するようにと楽しそうに告げると、わたしに帰る準備を急かし行っておいでとオフィスの出入り口から送り出してくれたのだった。

 

 わたしは急いで休憩室へと向かって走り、扉を開けて中を素早く確認すると、仕事用バッグを片手に持ちにっこりと微笑みを浮かべて椅子から立ち上がりこちらへ歩いてくる新垣さんの元へ足早に駆け寄って腕の中へと潜るように抱きついたら、そっと抱きしめられた。