あらがきさんにお披露目しよう (後編)

あらがきさんにお披露目しよう (後編)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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*会話文中心の小話。

 


「と、とにかく美月ちゃんの直筆半紙はわたしの物だからね!」

 戸田は比嘉が掲げていた半紙をスッと取りあげて、腕の中に隠すように持った。

「ああ、わたしの結衣を取らないでよね!」

 半紙は新垣と書いてあるのに、どうして比嘉の結衣なのかと突っ込んだ方がいいのだろうか?

「あかんて、まなみーはガッちゃんに書いてもらったらいいやん」

「その半紙じゃないと恋愛運も金運もアップしないから、これはわたしの物だってば」

 もう大半の人間が帰宅しているとはいえ、総務部のオフィスで一枚の半紙を巡って子供のような取り合いの喧嘩をする二人を見ているのは、ある意味では平和な世界なのかもしれない。

「失礼します、お二人共! 喧嘩はやめてください!!」

「「その声は…!!」」

「おっ半紙問題の谷村さんが来てくれたのかな~?」

 わたしは椅子をクルッと回して振り向くと、またもや先ほどの二人と同様に半紙を片手に持った吉岡さんが真剣な表情でわたしの背後まで歩いて来たのだった。

「新垣さん、わたしもつい先ほど谷村さんにお願いして半紙に書いてもらって来ました」

「あのさ…谷村さんは社内でも相当多忙な子なのに、みんな遠慮してあげようよ…」

 というか、なんでみんなわざわざわたしに見せに来るの?

 新元号とかもう関係なくなってるし、ツッコミだしたらキリがないような気がしてきた。

「とにかく、わたしの半紙の言葉を見てください…どうかお願いします…」

 今にも泣き出しそうな吉岡さんを不憫に思い、わたしは努めて優しく答えてあげた。

「わかった、吉岡さんが考えた言葉をわたし達に見せてほしいな」

 その言葉を聞いた吉岡さんも緊張した面持ちで比嘉と戸田と同様に、某官房長官の真似をして半紙を掲げた。

[新垣さん愛しています]

 わたしの胸にキューピッドの矢が飛んできてグサッと刺さったのがわかった。

「ガッちゃんへの…」

「愛の告白なの…」

わたしの温まったハートとは逆に、戸田と比嘉は半紙の文字を見た瞬間凍りついてしまったようだ。

「吉岡さんありがとう、今までで一番嬉しい告白だったよ! SSの続きできちんと結ばれるといいね」

「はい! 新垣さんと仲良くさせていただきたくて、谷村さんに無理言って書いて頂きました」

「美月ちゃんの字で新垣さん愛していますって書かれてるのは…胸がズキズキ痛むわ…」

「あぁああ、わたしの結衣がまた遠くへ行ってしまいそうよ…」

 とうの昔にツッコミ疲れたわたしは椅子に腰掛けたまま、吉岡さんを呼んでお膝の上に乗せて冷めかけのコーヒーを一口啜って一息ついた。

「恵梨香…ハートブレイクなわたしを慰めてくれる…?」

「まなみ…うちが慰めてあげる…」

「失礼しまーす、あっ恵梨香さんまだ待っててくださったんですね」

 比嘉と戸田は慰め合うように固く抱き合っていたが、半紙に筆入れした人物が総務部オフィスへとやってきた途端、戸田は秒速の速さで比嘉から離れてしまった。

「美月ちゃ~ん♡ うん、書いてもらった半紙をみんなにお披露目してたところなんよ」

 そんな中、二人に漂うほんわかした空気を壊したのはこの中では一番年長者である比嘉だった。

「ぅぅ…いやだ…恵梨香は美月ちゃんには渡さないもん…」

[新垣]の半紙をちゃっかり取り戻している比嘉は、このオフィスへやって来た時のように突如、戸田にガバッと抱き着いたのだった。

「ちょっとーっ、まなみ急にどうしたん!?」

「美月ちゃん、この子…わたしのだから諦めてくれないかな…?」

「…比嘉さん…それは全く知りませんでした…」

 突然始まった修羅場に吉岡さんが怯えているのが背中越しに伝わり、大丈夫だよと言って頭を撫でて落ち着かせてあげた。

「美月ちゃん、まなみが勝手に言うてることやから…ぁ…うん」

 谷村さんは戸田にだけ見せると思われる満面の笑顔でこくんっと頷いて安心してくださいという合図を送り、戸田も谷村さんに笑顔を見せている姿が可愛いと密かに思った。

「わたしも自分で半紙に書いてきたので見ていただきますね」

先ほどの三人とは違い、谷村さんは戸田に半紙を手渡してみんなに見せてくださいと言い、戸田は先にその半紙を見てニコッと笑ってからわたし達に半紙を掲げて見せた。

[末永く愛しています]

「おおっ愛未の文字が入ってるね」

「谷村さん素敵です!」

「あちゃー、さすがにこれはわたしも完敗だわ。美月ちゃん、恵梨香、お騒がせしてごめんなさい」

「うちもまなみのこと親友として末永く愛してるから、落ち込まんといてな」

「うわぁああ、恵梨香愛してるよーーっ!!」

「うちもまなみ愛してるーーっ!!」

 しょうがないですねと呟いて一息吐いた谷村さんの戸田を見守る温かい瞳を見て安堵したわたしは、恋愛の運気を上げてくれるという噂の半紙に込められている愛情を感じて自分も欲しくなってきたのだった。


 そうして、谷村さんを交えて半紙を掲げて写真撮影をした面々の謎のお披露目会はこれにて幕を下ろしたのでした。

 


おしまい。