その人が気になったら一直線で会いに来て(前編)

その人が気になったら一直線で会いに来て (前編)

(がきりほ)

 


*本編の内容から外れた番外編になります。

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 


「…おいで、里帆ちゃん」

「…はい、結衣さん」

 

 これは夢なのか、現実なのか…夢でも幸せだけど、覚めない夢じゃないとあなたはわたしに教えてくれますか…?

 そんな夢かと錯覚してしまうような人物と接近するきっかけとなった出来事は、日常ではありふれているような接触なのだといえるのだろうか…いや、わたしの場合いわゆる妄想が具現化したものと言えそうだった。

 


「えーっと…頼まれているダンボールの箱はと…あっ! あんな上の棚じゃ取れないよね…どうしよう」

「吉岡さん、どれが取りたいの?」

「あの最上段の右側のダンボールの箱を…ぁ」

「わかった、ちょっと失礼」

 

 なんということでしょう! わたしの背後からダンボール箱へと手を伸ばしている人物は、この会社では三本の指に入るほど我が部署へどうぞ来てくださいと転属依頼が殺到するくらい人気者である、新垣さんが直近の距離に見えた。

 

 (あああぁ新垣さんがなんでこんな近くにいるのー??! フレグランスの香りが甘い~)

 

「んー、もう少しで届くのになぁ…あ…!」

「へっ? …ぁ…はぅ…」

 

 新垣さんの位置からだとダンボール箱まで手だけは届いているのに掴んで降ろせないため、一旦手を下げて体制を整えるのかと思ったのに、予想と反して自分の背中に身を寄せて来たので驚きの声を上げてしまう。

 

「わっ!!!」

「あ、ごめんね、体に触れたら嫌だった?」

「い、いえ、寧ろどんどん触れてもらって構いません!」

 

 わたしは何を言っているんだろう…

 そんなこと言われたら新垣さんはドン引きするに決まってるでしょうが、うちのあほー!

 

「そっかぁ、じゃあもう少しだけこうしててもいいよね…?」

「あ…あらがきさん…」

 

 新垣さんはドン引きするどころか、わたしの背中に体を預けるように抱きついてきたのだ。

 何故、新垣さんが自分に抱きついているのかと考えるより、新垣さんの体温に包み込まれている方に意識が集中して胸がドキドキしているのはどうしてなんだろう…?

 

「わたしさ、前からずっと気になってたの…」

「気になってたとは、どういったことでしょうか?」

「それは、吉岡さんが社内を一生懸命駆け回ってる姿とか、雑用をこなしながら仕事を任せてもらえるようにコツコツ努力してるところとか、時々見かけて気になってたよ」

 

 まさか新垣さんに仕事中の姿を見られていたなんて全く知らず、恥ずかしい自分の姿を見て気になっていたのだとしたら、胸がドキドキするより足元がガクガクしている方が正しい反応のような気がしてきた。

 

「そんな姿を見ても何も面白くもないですし、気になるようなところなんて一つもないじゃないですか…」

「まあ、そう言われても仕方ないか…わかった、ちょっと横に一歩動いてもらってもいいかな?」

「あ、はい」

 

 わたしが横に一歩動くと同時に、新垣さんはわたしが取れなかったダンボール箱に腕を伸ばして掴み取ると、ハイッと渡してくれた。

 

「どうもありがとうございます!」

「お役に立てて嬉しいよ。それより、備品保管室に用事を頼むなら、身長が高い人が来てくれたらいいのにね」

「わたしもそれは思ったりもしますが、今回は新垣さんが来てくれたおかげで助かりました」

「うん、だから気になってたんだよ…何か自分に出来ることで吉岡さんを助けてあげたいなぁと思ってたの」

 

 備品保管室の狭い通路でダンボール箱を持ったわたしは身動きが思うように取れず、新垣さんに髪を撫でられて、優しい声色で助けてあげたいなぁなんて言われたら、心臓がドクドクと激しく脈打ち始めてしまう。

 

 (ぁああ…このままだとわたし、あなたに恋してしまいそうです…)

 

「ぁぁ…あの、お礼と言ってはなんですが…もしよかったら…」

「うん、今夜空いてたりする? もし空いてるなら晩御飯一緒に食べに行かない?」

「バッチリ空いてます! いえ、全力で頑張ってお仕事を終わらせて来ます! そうと決まれば急がねばー!!」

 

 今夜の予定も時間も何も決めてないまま、わたしは一生懸命この恋に向かって走り出しているのだった。