メモ書きひとつで触発 オフィスラブ

メモ書きひとつで触発 オフィスラブ

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 


 ある日、夜のはじめ頃のオフィスにて、戸田の机の上に外部の講和会議で貰って来た資料を置こうとすると、謎のメモ書きを見つけてしまった…

 


正妻[天海さん]

愛人[新垣さん]

アバンチュール[谷村さん]

 


「んんー? な、何これ!? …トッティーとの人物関係図??」

「あっ、ガッちゃん帰って来てたの、お帰り~外寒かったでしょ」

 お手洗いにでも行って来たのか、さっぱりした顔をした戸田がわたしに手を振りながらデスクの前まで帰ってきた。

「………うん、寒かったよ」

「今の微妙な間は何?」

トッティー、ハグしてくれる?」

「えー、まだ何人かちらほら残ってるからここでは無理~」

「じゃあいいよ、自分からするし」

「あ、ちょっ…ガッちゃん急にどうしたのさ」

 メモ書きを見て正直ムッとして腹が立っているが、戸田の顔を見ると甘えたい気持ちが勝ってしまうのだ。

「…トッティーにとって、わたしは何者なのかなって…気になる…」

「そうねぇ、自然体でいられる親友であり、一生付き合っていきたい大事な人だよ」

 戸田の話す言葉には嘘偽りなどないと感じて純粋に嬉しかったが、大事な人の意味も色々あって分かりかねるし、机の上のメモ書きと言っていることに矛盾が生じているのはどうしてだろうかと混乱していた。

「そういうガッちゃんはどうなの?」

「う~ん…大事な人=愛人?? それはさすがにイヤだな…」

「あのさ、愛人って何の話してるん? 帰って来てからなんか変だよ」

 変だと言われて反論しようとした時、わたしと戸田の背後に仁王立ちして御立腹な上司の姿が見えて、引き気味にたじろいでしまう。

「コラー、あんた達いつまで抱き合って暖を取っているのよ、それとも私達はラブラブなんです~と周りの人間にアピールしてるわけ?」

「いえ、その…戸田の机の上に変なメモ書きを見つけて、自分が戸田にとって何者かの確認をしているんですが…」

「ねえ結衣、その変なメモ書きって何?」

 戸田から身を離して、メモ書きを目の前まで持ち上げて見せた。

「なになにえーっと…正妻 [天海さん]愛人 [新垣さん]アバンチュール [谷村さん]…はあ? 何やのこれ!!?」

 戸田はメモ書きを読み上げたら、直ぐにパッと取られてしまった。

「わたしのこと愛人だと思ってたらすごくイヤなんですけど…」

「待ってガッちゃん、わたしこんなメモ書いてないし、美月ちゃんに対してだってこんな書き方するわけないもん!」

 わたしの両肩を掴みながら困惑して悔しさを滲ませる顔で釈明している戸田と、二人の側に立ち無言で静観している天海さん。

「じゃあ誰かが書いた悪戯書きってことだよね?」

「そうだよ! うち自身のことだけ書くならまだしも、あの子の名前を書いて誹謗するなんてほんま許せんわ…」

「…愛人よりもアバンチュールに触れると恵梨香は怒りを露わにするのね…なるほど、睨んでた通りだったわ」

 ずっと無言で静観していた天海さんが漸く口を開いたと思ったら、核心をつくような話し振りに一瞬身震いした。

「まさか、これを書かれたのってあなたなんですか…?」

「やだ恵梨香ちゃんったらお顔が怖~い。うん、そうよ~殆ど当たってるよねー?」

「やめてください!! これ以上は我慢出来かねます…」

 戸田を煽って怒らせてどうするつもりなのか見当もつかない状況だ。

「新垣もはっきりと言ってあげなさい、トッティーの愛人なんてお断りだ!ってね」

「天海さんやめてください、ここは仕事場ですから……あ…トッティー…!?」

「…くっ…ぅぅ…美月ちゃんごめん…うちめっちゃ悔しいのにこれ以上この人相手に怒れへん…」

 戸田はメモ書きをクシャッと潰してデスク横に置いてあるゴミ箱にバシッと捨てると、泣き顔を隠すようにオフィスから走って出て行ってしまった。

 

「恵梨香…泣いてましたよ…天海さんはあの子を傷付けたかったんですか?」

「正直言うと、しくじってしまったわ…谷村さん関連であんなに感情を露呈するなんて予想外だったのよ…」

「あの子は谷村さんの体調を誰より先に気にかけてましたし、何かあればわたしや天海さんに対しても噛み付いてくるくらいの愛情深さを感じています…」

「そう…新垣の二人への関心はどうあれ、ブラフをかけて真意を問いかけようとしただけなんだけど…後で謝らないと」

「恵梨香は気が強めだけど繊細で優しい子だって知ってると思っていましたが、あなたにはガッカリですよ!!」

 

 戸田を追いかけようとオフィスを出て歩き、総務部階の休憩室を覗くが見つからず、他の階の休憩室を覗いてみようと思い階段を下って歩いていると、嗚咽を漏らす声が聞こえて戸田が下の階の踊り場にいるのだと確信して近づいて下っていくが、もう一人そこに居る声が聞こえてその場に立ち止まって静かに耳をそばだてるのだった。


「……心痛めなくても大丈夫ですよ…恵梨香さん…」

「…ぅぅぁああ…ホンマは一発ど突きたいくらい悔しくて腹が立ってんけど…あの人にはどうしても出来んかった…」

「…よしよし…大切な人を傷付けんかったからよかったじゃないですか…二人が昔みたいに仲良しでいられるだけでもわたしは十分幸せなんですから…」

「…ごめんな…よく考えてきちんと伝えるから…うちを待っててくれる…?」

「…はい。今はまだ…友達として近くで待っていますね…」

「…うん…ありがとう…」

 


 天海さんの書いたメモ書きは殆ど当たっていないと今の会話を聞いて大体わかった。

 


現恋人 [天海さん]

親友以上恋人未満 [新垣さん]

友達以上で恋焦がれる人 [谷村さん]

 


 これで書き直して、たまには自分も思い切って部長に噛み付いてみるかと考えながら、オフィスへと引き返す階段を上って行った。