嵐を呼ぶ女 谷村さんが行く❷

嵐を呼ぶ女 谷村さんが行く❷

 

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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「朝早いから外すごく寒いなぁ…」

 

 温かいホットティーが飲みたいとか暖房がある室内へ戻りたいとばかり考えながら、竹箒で枯れ草やゴミを掃き集めている。

 会社自体には清掃員はいるが、会社の周辺と地域の美化活動を定期的に行っているのが総務部の役割の一つでもあるのだ。

 この竹箒に跨ってお空へビューンと飛んで行けたらいいのになって子供の頃は誰もが想像したことがあるよね〜何て考えているところに、最近馴染みつつある後輩が声を掛けて来たのだった。

 

「おはようございます新垣さん。早朝から外清掃お疲れ様です」

「おはよう谷村さん。いつもこんなに早くに出社してるの?」

「いえ、今日は朝早くから営業部会議に参加するので、その準備で早出しているんですよ」

「そっかあ、営業部門はそういうのが多いところが大変だよね」

「わたしは朝起きるのが苦手なので、それ以外は難しい案件だろうと特に苦にならないのですが、総務部の早朝美化活動も大変なお仕事だと思います」

「お互いの部署に一長一短があるってことか」

「そうですね」

 

 穏やかな瞳でニッコリと微笑んで見上げてくれる谷村さんを見ていると、思えばこの子とは10センチくらいは身長差があるのだと認識して、小さくて華奢なのに柔らかそうな絶妙なバランスのボディーで、彼女より長身である戸田が可愛がっている理由が薄っすら分かってきたのである。

 

「あっ、谷村さんの髪、埃が付いてる」

「えっ、どの辺りでしょう?」

「大丈夫、取ってあげる」

 

 わたしは谷村さんの髪に埃が付いてるのが見え、少し屈んで手ぐしですくようにして取ってあげた。

 谷村さんから感謝された直後、背中を押すような突風が吹きつけてきたが、自分の身を縮こませるよりも早く、彼女が身を寄せて抱き着いて来たので全身に衝撃が走った。

 

「…ぁぅ…さむい…(ギュッ)」

 (このシチュエーションは何!!? ヤバイ…超可愛い…この子もしかして無意識でこんなことしてくるの?!)

 ギュッとハグして3秒でKOという女心までくすぐる可愛らしさにキュンとして胸が高鳴っていた。

 谷村さんとハグして寄り添いながら寒さを凌いでいると、朝っぱらから会社に響いてしまいそうなくらいの高々とした声が飛んできたのである。

 

「ああぁあっ、ちょっとーーっ!! ガッちゃんっ何やってんのよ!!!」

 

 戸田は数十メートル先からダッシュでこちらへとやって来て、わたしと谷村さんを素早く引き離していつものように抱き寄せてくると瞬時に思ったのだが、予想外の事が起こったのだった。

 

「わわっトッティー、えっ、あっ、そっちなの…!?」

 

 戸田はわたしから谷村さんを守るように腕の中に抱きしめたのだ。

 

「ガッちゃんに何もされてない? ハグだけ? キスしてきたり、美乳揉まれてない? あわよくばキスマークとか付けられたりとか、etc…」

「…(小声) それするんは恵梨香さんですよね…ごほん、新垣さんとハグしてただけです」

「美月ちゃん無意識のハグが多いから、恵梨香お姉さんいつも心配しとうよ」

「もしも~し、トッティー」

「余計な心配しなくても、恵梨香お姉さんからは下心しか感じませんよ」

「おーい、ヤッホー! トッティーさーん!」

「やだなぁ、下心なんて微塵もないのに。美月ちゃんが可愛いのがね~いけない子❤︎」

「まったく声が聞こえてないとか…その空間は二人の世界なの??」

 

 この前までは比嘉や天海さんに、わたしに指一本触ったらあかん!とか言って番犬よろしくしていた戸田が、後輩の谷村さんにメロメロで心ゆるゆるな様子を見ていると少々複雑な心境になっていた。

 

「あっ、そろそろ時間なので行かないと。新垣さん、美化清掃中にお邪魔してすみませんでした」

「お気になさらず。むしろトッティーがお邪魔なだけだったから、お仕事頑張ってね〜」

「はい、新垣さんもファイトです! それでは失礼します」

 

 谷村さんに和かな顔をして無言で手を振る戸田と向かい合うと…

 

トッティーさん…あの子、超可愛くない?」

「ガッちゃんさん…あなた、気がついてしまったのね…」

 (あの押しが強そうで引くところは引く不思議な魅力と可愛さは、推しの後輩でOKだね?)

 (OK! やっぱわかるか〜いやあ、誰にも言わずに隠しきれなかったのは、残念。ガッちゃんは見る目があるねー)

 暫し心の中を通じて会話するように推しの後輩の可愛さを分かち合う謎の二人。

 

「そろそろお掃除に戻ろっか」

「うん、早く終わらせてコーヒー淹れて飲みたいわ」

「わたし、ホットティーがいい」

「りょーかい」

 

 そのあと、美化清掃中は一切突風が吹くことはなく、もしかしたら谷村さんが一時的に嵐を呼んだのではないかと思ったことは、戸田には言わなかったのである。

 

終わり。