オフィスラブ キャラクターリレーSS④ (中編)

オフィスラブ キャラクターリレーSS④ (中編) (谷村さん→戸田さん)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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 オフィスに到着し息をゆっくりと整えてから自分のデスクへ戻ると、お隣のデスクの波瑠ちゃんは社員食堂へ行ってなかったようで、カップ麺の蓋を開けて食べ始めていた。

「ズズッ…(もぐもぐ)…あっ美月さんもう食べて来たんですか? 早かったですね」

「うん…あんま食欲なかったんよ…」

「食欲ないって風邪ですかね?」

 不純な思考で悶々としていたとはさすがに言えず、そういう時もあるよと言ってはぐらかした。

 それにしても、恵梨香さんには額に当てた手から微熱があるっぽいと言われて心配されたのに、波瑠ちゃんからは体調を気に掛けてくれるほど距離感が近くないと示されているみたいに感じてしまう。

「波瑠ちゃんこそ忙しくないんだからきちんとした物を食べたらいいのに」

「新商品のわさび豚骨ラー油バリカタカップ麺です」

「んん? わさび豚骨にラー油って美味しいの?」

「結構いけますよ~、少し食べてみます?」

「ノーセンキュー」

「わかりました。お腹空いてきたらもう一つ別のカップ麺があるので、欲しかったら言ってくださいね」

「はいはーい」

 

 食事時で周りの同僚や上司の大多数がオフィス外へ出ている様子で、自分と波瑠ちゃんの周りはガランとしていた為、ちょうどいい機会だと思いずっと引っ掛かっていることを尋ねてみることにした。

「ねえ、波瑠ちゃん…わたし達って付き合ってるんだよね…?」

 カップ麺を食べる手がぴたりと止まり、波瑠ちゃんは複雑さを多く含んだ表情でこちらに顔を向ける。

「一応そういうことになっていますね…」

目の前に立ち塞がるような冷たく固い壁を感じた。

「一応って言いかたをするのはどういうこと? 始まり方があんなだったから?」

「始まり方に関してはわたしに責任があると思うのですが…」

「波瑠ちゃん…」

 波瑠ちゃんとの温度差をいやが応にも感じてしまう。

 年越し前に見た比嘉さんへの求愛と云える熱烈なアピールや新垣さんへのライバル視を目の前で有り有りと見てしまったのに、胸が苦しくならずにいられるわけがなかった。

(恵梨香さんに都合よく縋って慰めてもらったのはわたしの方だったなんて誰にも話せるわけがないよ…)

 愛しかった想いをようやく伝えて彼女にしてくれたと嬉しく思っていたのに、自分の想いが蔑ろにされているみたいで胸が息苦しくて頭がズキズキと痛みを伴っていた。

「すみません、わたし、美月さんの期待に応えられるような人にはなれないです…」

「期待って何…?うちは波瑠ちゃんが付き合ってくれると期待を寄せているだけの人ってことなん?」

「ごめんなさい…美月さんの望まれている関係にはなれないと言いたかったんです…」

 ただただ胸が苦しかった。

 仕事場でするような話ではないのに、気になって軽々しく聞いてしまったことを激しく後悔した。

「…あの日…波瑠ちゃんが抱いて求めてくれて本当に嬉しかったのに…何も無しになんてそう簡単に出来へんわ…」

 それだけ伝えて、波瑠ちゃんからの返事も何も耳に入れず、そのあとひたすら仕事に没頭した。

 


「……さん…谷村さん、大丈夫?」

「…あっ…鈴木次長…何でしょう?」

「ずっと仕事に没頭してたのは感心なんだけど、もう時間も遅いし今日はここまでにして帰りなさい」

 腕時計を見ると21:15を指しているのがわかった。

 繁忙期だと21時以降を回っても帰れないことがごく普通に多いのだが、今の時期は比較的に定時で帰れるようになっているのに、自分と鈴木次長だけが帰らずに残っている様子だ。

「遅い時間まですみませんでした…うちもう帰ります…しつれいします…」

 仕事用の肩掛けバッグに電子ノートと資料一式を詰め込み、何故か重たくなっている体を引きずるようにしてエレベーターに乗り込み、一階へと降りてフラフラした足取りで歩く。

 俯向きながら一歩ずつ進みエントランスホールに差し掛かると、待合用のソファーから立ち上がってこちらへと小走りで向かってくる人影が見えて、そのままその人の腕の中に抱き留められたのだった。

「…やっとつかまえた…昼からずっと心配しとったんよ…美月ちゃん」

「…えりかさん…どうしてこんな時間までおるの…? あっ…その格好」

「あ、これ? 一度家に帰ってから出直して来たんよ。ほら、きちんと社員証もあるからここにおっても問題ないのでーす」

 外出着の中でも比較的ラフな格好で、わたしを抱きかかえながら社員証をほらっと目の前に掲げて得意げな表情の恵梨香さんが見えたのでした。