その想いの先にあるもの (後編)

その想いの先にあるもの

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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 四人でビールをピッチャーで頼み、嬉しそうにコップに注いでくれる比嘉さんと、そのあともペースが落ちることなく飲み続けていく。

 比嘉さんとゆり子さんにも恋話を振ると、「わたしと愛未ちゃんはねぇ、実は付き合っててラブラブなの~」なんて、ゆり子さんが冗談か本気か察し難い口調で話してきたので、無難に「あら~比嘉さんって年上にもモテるのねぇ」と返して様子を見た。

 すると、紗季ちゃんから冷静なツッコミが入ってしまう。

「法務部の頃の愛未ちゃんは年下好きだと本人が常々とお酒の席で語っていましたけど」

「そうなの?」

「はい、時々目一杯甘えさせてくれて頼りにしてくれる年下が好きですよ~!」

「あらま~、わたし達三人共振られちゃったね」

「「付き合ってなかった上に、振られたのはゆり子さんだけですから」」

 

 あたしは珍しく紗季ちゃんとシンクロしたツッコミを入れることが出来たので、ヨシヨシと満足気に一人頷くのだった。

 しかし、よく考えてみると、動物好きでペットのお世話を生活の中心にしているゆり子さんが冗談でも付き合っていると言うくらいだから、比嘉さんに対するそこはかとない愛情の一端が垣間見れたような気がした。


 そんな時だった。ゆり子さんは急な電話で申し訳なさそうに席を立ち、紗季ちゃんもお手洗いに行ってしまうと、自分の隣に座る比嘉さんが突然糸が切れたかのように肩に顔を埋めて抱きついてきたので、これにはさすがに驚き大丈夫かと尋ねた。

 

「大丈夫? 突然どうしたの?」

「ごめん…なさい…もう…眠くて……」

 

 ハイテンションで飲み続けた反動で急な眠気がやって来たらしい。

 タッチパネルでお水を二つ頼んで、比嘉さんの気分が悪くならないようにと胸元が見えないギリギリのラインまでブラウスのボタンを外してあげた。

 ブラウスから手を離すと、縋るような格好で胸に頬を寄せてきた比嘉さんを無下に扱うことはしたくなかったので、頭を抱えてあやすように背中をポンポンと優しく叩いていたら、独り言のような呟きが聞こえてきた。

 

「……抱え………んだよ……ゆい……すきになって……ごめん……」

 

 ハッして比嘉さんの横顔を眺めた。

 彼女は一筋の涙を流し、次の瞬間には静かに寝息を立て始めていた。

 

 この状況だと確実に自分の恋人に誤解されそうだと思って内心焦ったが、お手洗いから戻ってきて一瞬一歩身を引いて大きく目を見開いた紗季ちゃんは、以前から見知って慣れているのか、やっぱりそうなったんですねと言って自分の隣に座った。

 

「おーい愛未ちゃん、紗季ちゃんが来てくれたからそっちへ体を預けようね~」

「ちょっと羊さん! 愛未ちゃんの胸元のボタン外して何してたんですか?」

「待ってストップ! 苦しくないように谷間のギリギリまで外してあげただけなのよ、信じて紗季ちゃん」

 

 愛未ちゃんを抱きかかえてあげながら比嘉さんと自分を見比べた紗季ちゃんは、状況的には介抱してあげていたと信じてくれたのでホッと一息ついた。

 そのあとは、ゆり子さんが遅れて個室へ戻り早々と解散となって、紗季ちゃんが比嘉さんをお家へと送って行き、あたしとゆり子さんはタクシーに同乗して帰路に着くのだった。

 

『…抱え込まなくていいんだよ……結衣…好きになって…ごめん…』


比嘉さんの胸の内にある想いを知ってしまった自分に何か出来ることはないかと、お節介にも時々考えるようになっていくのでした。

 

終わり。


[登場人物追加]

 

石田 ゆり子

正体がシークレットだった人事部長。

人柄良しで人事部の中では特に優れた人材である比嘉さんへの評価が高く、人事部長の後継者として積極的に指導している。

周りを瞬時に笑顔にするような、面白くて天然なところが魅力の人。