リップスティックキッス その4

リップスティックキッス その4

年越し年明けSS 未解決商事の年末年始女子会 (小休憩中の小話 ラスト)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 

 

あまりほ

 現在、吉岡はというと、お手洗いを済ませて洗面台でお化粧直しをしていた。

(先輩方と上司の方々ばかりだけど楽しいな~…ただ、わたしも好きな人と触れ合いたいんだけど…羊さんとあんなことやそんなことを…)

 触れ合える筈もないのに脳内の想像だけでうっとりしているところに、天海さんがやって来て声を掛けてくれるのだった。

「吉岡さんも楽しんでくれてる? 年上ばかりで気を使い過ぎてない?」

「あ、はい。すごく楽しんでいます! 洗面台使いますか?」

「うん、戸田にクレンジングして来てくださいって追い立てられたの、そんなにバブリーかしら?」

「唇からはみ出しているのが気になってるとかですかね?」

「まあ、キスして塗りたくったからしょうがないんだけど、早く落としちゃおう」

「キ、キスして塗りたくったんですか! 恋人さんですもんね…それくらいは日常的ですよね」

 化粧直しはとっくに済ませているのに早々とダイニングに戻らずに、後から洗面台に来た天海さんのクレンジングを見つめていた。

(高身長で頭の回転が速くて綺麗でカッコイイ上に気配り上手の天海さんに女性陣がこぞって憧れるのはよくわかるなぁ。全て持ってる天海さんにも悩みとかあるのかな?)

「ふぅー、オーケーもっと綺麗になったわ」

「すっぴんでもお綺麗ですよね、憧れます」

「そう? ありがとう。憧れますとか皆口々に言ってくれるけど、こんなのでも悩む事は意外とあるのよ」

 タオルで顔を拭き取り、鏡に映るわたしを横目で見つつ苦笑いしている天海さん。

「そうなんですか? 地位が高くて、容姿端麗、可愛い恋人さんもいる天海さんでも悩む事があるんですね…」

「あるよ~、仕事面はいいとして、可愛い嫁に関しては気を抜くことが全然出来ないんだもん、この歳になっても結構あるもんだよ」

 こんな一番下っ端に弱い一面を見せてもいいのだろうかと頭を過った。

 わたしが欲しいと思うものを全て持ち合わせていても悩む事なんて幾らでもあるという事実に、返す言葉が見つからなかった。

 返事がないことを気にするそぶりを見せない天海さんは、わたしに近づいてニコッと笑った。

「吉岡さんの手に持ってるのって化粧ポーチだよね? リップクリームも入ってる?」

「はい、二種類ほど入れてますよ。よかったら使いますか?」

「そうね、吉岡さんが塗ってくれる?」

「えっ!! わたしが天海さんの唇にですか?」

「ほら、自分で塗ったらずれちゃうじゃない? だから、ヨロシク♪」

 目の前で屈んで塗りやすいように顎を上げている天海さんを前にして緊張が走った。

(これって上司命令というものなの? どうしようどうしよう…この状況こそあきまへん!)

 しかし、待たせるのも悪いと思い、わたしは意を決してリップクリームをポーチから取り出して、震える手で持っているリップクリームを天海さんの唇に塗った。

 無事に終わったと一息ついた途端、視界の先に天海さんの瞳が間近に映り、意識が追いつかないうちに唇が合わさり啄ばむような口付けをしてきたのだった。

 そこへ、なかなか戻ってこないわたしを心配したのか波瑠さんが洗面所のドアを開けて中へ入った瞬間、驚きの声を上げた。

「吉岡~トイレ長くないー? へっ!? ぁあ、ごめんなさい!!」

 何が起こったのか理解出来ずに頭がボヤけているわたしと天海さんのキスを目撃してしまった波瑠さんは、謝りながら逃げるようにダイニングへと駆け戻って行くのがぼんやりと見えた。

「物分かりは良さそうだけど、波瑠ちゃんには後で口止めしないと…

里帆ちゃんはもっと大人のキスが出来るように頑張ってね~、じゃあねー」

「……ぁ……あまみさんと……キス……ふわぁああ!」

 わたしは頬と耳を赤々と染めて、その場からしばらくは動けないのでした。