嵐を呼ぶ女 谷村さんが行く❶ (後編)

嵐を呼ぶ女 谷村さんが行く❶ (後編)

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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「…横から失礼しまーす、天海部長、社内環境を整えるのが総務部のお仕事ですから、今回も谷村さんの声は受け取りましょう」

 

 わたしの好みのコーヒーを淹れてデスクに置きながら、そろそろ業務に差し障るので御開きにしてくださいと戸田に言われて周りを見回し、直属の部下じゃない者に対して少々熱くなっていた自分が恥ずかしくなった。

 谷村さんの視界から僅かに外れたところでパチッとウインクして励ましてくれる戸田の心遣いに、気持ちが和らぐのだった。

 

「戸田、わかってるって、ありがとう。谷村さん、この件をうやむやに流すつもりはないからそこは安心してね」

「はい、色々とご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

 

一礼をして意見を言ってスッキリという顔の谷村さんに、自分の恋人と似ている一面があるなと、こういうスカッと物申すタイプは嫌いじゃないと思った。

 谷村さんとはどういうわけか親しいらしい戸田が、彼女の肩に腕を回してポンポンッと叩いてご機嫌良さそうに話し掛ける。

 

「美月ちゃんがスカッと天海部長に意見を言っててシビれたわ~!うちの部署に転属して来て、わたしの代わりに桃太郎やってくれないかなー?」

「桃太郎って鬼退治の桃太郎ですか?」

「そうそう、目の前にデカい鬼がいるから闘い甲斐があるって感じやけど」

「ちょっと!あんたまたわたしのことを鬼呼ばわりしてるの!!」

「恵梨香さん、さすがにそれは天海さんに失礼ですよ」

「ねー、ほらほら、谷村さんの言う通りよ」

「わたしが思うに天海さんは鬼ではなくて、百獣の王ライオンのイメージですね」

「ああ、確かにそうかもしれないねー」

「こらーっあんた達二人共上司に向かって鬼だのライオンだの好き勝手言うんじゃない!」

 

 戸田と谷村さんはすみませんでしたと同時に頭を下げて頭をあげるタイミングもシンクロし、顔を見合わせてニコッと笑い合っていた。

 

「あらーっ、戸田は新垣よりも谷村さんとの方が相性がいいんじゃないの〜、それなら新垣と交換でうちに来ない?上への意見書の提出より円滑に進むと思うし」

「…天海さん…それは冗談ですよね…?」

 

 戸田は一瞬で表情に冷たさを帯びて声色まで一変させた。

 

「まあね、冗談だけど…ね、谷村さんってちょっと~!?」

「そろそろタイムアップなので失礼しまーす、それではごゆっくりどうぞ~」

 

 冗談半分の話途中で背を向けて楽しそうに帰っていく谷村さんのご機嫌な様子に、やられた!と思ったところでもう遅いのだった。

 彼女は上半期と同様に仕事を中断せざるを得ない状況を残していくという、厄介な性質を持っていることを忘れていたのだ…

 

「待って戸田、よ~く話し合って仲良くしましょう。ちょっと、誰か急いで新垣をここに呼んでー!」

 

 新垣さんは席を外してますよ!備品の購入に外出しています!と慌てた様子の返事があったが、こちらはそれどころじゃない。

 

「…天海さん…新垣をどちらに外すおつもりですか…?」

「新垣は今出かけて居ないだけなのよ、落ち着いて恵梨香ちゃん…誰か早く新垣を連れてきてよーーっ!!!」

 

 そのあと機嫌を損ねてしまった戸田にめちゃくちゃ噛み付かれた上に、お家に呼んでもしばらくの間一緒に寝てもくれず、戸田の機嫌が直るまで谷村さんが再びうちの部署を訪れないことを願うばかりだった…

 


終わり。