嵐を呼ぶ女 谷村さんが行く❶ (前編)

嵐を呼ぶ女 谷村さんが行く❶ (前編)

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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 今年度こそ会社全体を最適化するべく努力と円滑な社内環境の整備が行われていると自負してきたのに、今年の下半期も嵐を呼ぶあの子が、怯むことなくわたしの元へとやって来るのだった。


「天海部長、また未解決営業部の例の彼女がやって来ましたよ…」

「えっまたなの!?上半期でお互い納得するように意見をまとめたじゃないの、吉瀬課長もあの場にいたよね?」

「ええ、きちんと証人になるように見届けてくれと頼まれて半強制的に参加させられたので、いましたね」

「半強制的って言われると申し訳ないんだけど、こっちも多岐多用に対策していかないと後が辛くなるんだから」

「今が上半期のその後ということなのか、新たな火種なのか…ひとまず、天海部長とお取り次ぎをお願いしますと言ってますがいかがしましょう?」

 

 全部署の中でも嫌な役回りが結構、いや、相当多い総務部長として職務を全うすることを考えると、嘆息を漏らしながも逃げるわけにはいかないのである。

 

「はあぁーーっ…何も聞かずに帰すと京香ちゃんに皺寄せがいくだろうから仕方ない、話を聞くわ」

 

 わかりましたと言うと直ぐに総務部の入り口へと歩いていく吉瀬さんを見送り、数枚の書類を手に取ってチェックをしていく。

 総務部の面々の数人がざわざわと話し始めた声が聞こえて、ジロッと目配せすると頑張ってくださいという声援の視線が送られてきた。

 これから起こるやり取り(バトル)を見物できることに、ワクワクと楽しそうなのが目に見えていて、本当に腹立つわー!と心の中で御立腹するしかなかった。

 デスク横まで移動して来た谷村さんに、今気がついたという反応を表してチラリと目を向けた。

 

「あら、谷村さんじゃない、あなたの部署は今が一番忙しい時期に入っているんでしょう?うちも変わらず忙しいんだけど」

「お疲れ様です、と挨拶は手短にしまして…天海部長のおっしゃる通り、大変忙しい中で意見書を作成しお持ちしました」

 

 谷村さんはわたしのデスクに分厚めの意見書の束をバンッと叩きつけるように置いた。

 

この子は確かまだ28歳の入社六年目だった筈…

部長のわたしにこれだけ威勢良く紙束を叩きつけるとは、大胆不敵なタイプと見た。

 

「上半期の改善要望から少しは業務に変化があると思っていましたが、経営陣からの要望が以前よりも増加しているのはどういうことでしょうか?」

「こっちは総務部からも人員を回しているし、経営陣と現場社員との橋渡しの役割も果たしている、作業の段取りの方に問題がないか確認しているの?」

「作業の段取りも人員への仕事割り振りも滞りなく行われて確認している上で、この意見書の束になってるのです!」

 

 自分の上司だろうが部長クラスの幹部の人間にも高圧的に物を言えるこの性格はある意味利点であり、これから部下を育てる立場になっていくには大きな欠点でもあると言える。

 

「残業しないと業務が終わらない、多忙過ぎて過労で体調を崩す人員が出てくると食品経営企画部内の一人一人の負担が倍増する…こればかりは頭が痛くなる内容ね」

「ですから、タウンホールミーティング(経営陣と社員の意見交換会)を下半期も開催していただきたくて、総務部へと出向いて来たというわけです」

「部長や次長が出向いて来ないのは相当忙しいんだろうと察しているけれど、毎度のことながらあなたには根負けしそうよ」

「天海部長とバトルしたいわけではないんで、そこのところはお分かりください」

「意見書をこのデスクに叩きつけてる時点で喧嘩上等に見えたけどねぇ」

「それくらい強く動かないと上は全く動じないと思いますが…」

「そんな簡単に上の人間を動かしたり、一社員の言う事を易々と聞くわけがないでしょう…」

「それは従順承知ですが、何もしないで身をすり減らすだけなのは性に合わないですし、誰かが動かないと誰も動かないと思っています!」

「あんたね…付け上がんじゃないわよ!」

「付け上がってなどいません!きちんと筋を通して意見をお持ちしているだけですから!」

 

 総務部で正面切ってわたしにぶつかって来れる人間は吉瀬さんか戸田くらいなものだが、彼女はそれに負けず劣らず肝が据わっているのだろうと感心させられた。