マイライバル、マイエンジェル (未解決商事 オフィスラブ③)

マイライバル、マイエンジェル  (未解決商事 オフィスラブ③)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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 朝の会議室での密会をしていることは誰にも話してはいないが、谷村さんは感づいているに違いないと気がついていた。

 密会してくる日は必ずといっていいほど、対抗意識と羨望が含んだ強い視線を送ってくる彼女は行動を大方観察しているのだろう。そんな彼女と敵対していかなければならないのだから、憂鬱で気分が重かった。

 

「谷村さん、一昨日話していた例の営業先の件でちょっと進展があったから、今から少し時間をもらってもいいかしら?」

「はい、大丈夫です。追加の資料を直ぐにお持ちします」

 

 オフとオンはきちんと切り替えられる部分は社会人として備わっているようだ。

 彼女は仕事自体の評価も高く、全部署の同世代の中でも抜きん出るほど優秀で、どこへ出しても恥ずかしくないと言える人物なのだが、一つだけ頭を悩ます欠点があった。

 それは後ほど話題になるので、ここはひとつ置いといて…

 食品経営企画部の個別会議ブースで椅子を並べて座り、呼び出した件の話を先に進めていくことにした。

 

「先方の営業先からお話を進めてもいいという許可が下りたから、谷村さんの企画を通すことに決まったわ」

「わあっホンマですか!!ありがとうございます!」

「担当者としてしっかりやるようにお願いね。午後にアポを取ってるんで、一緒に挨拶へ行くから二時間程外回りできるように準備してね」

「わかりました、始業したらあらかた終わらせて来ます。それではこれで…」

 

もう一件話があるから待つようにとその場に留めた。

 

「はい、何でしょう?」

「あなたに他の部署から注意して欲しいと数件の苦情が届いているんだけど…」

「あ…またですか?」

「そう、またなのよ」

 

 仕事が出来るが故に他人への配慮が少々足りないというのか、高圧的に物を申して仕事を急かしたり催促しているらしく、わたしの元へ泣きついて来る子や他部署の幹部クラスの人間からの不満の声が届いているのである。

 またその話ですか…と、面倒だという表情に反省の色が見られないのはどうしたものかと、彼女を前にして頭を抱えてしまいそうだった。

 

「何で皆さん私に直接言ってこないんでしょうか?」

「谷村さんに言える人間は、この部署だとわたしか部長しかいないでしょ」

「どんどん言って来たらいいんですって、そんなわたしなんて怖くないんですから」

「言われる前に苦情が来てる原因を認めて改めなさいと言っているでしょう。柔和さと人当たりの良さが加われば、もっと素敵な人になると思っているのよ」

「さすが鈴木次長ですね、諭しつつも柔らかな物腰を崩さず優しい…そういうところにあの子が惹きつけられているんでしょうね」

 

 反論するよりも話を逸らしてしまおうとする返しに、わたしも負けじと注意を重ねていくのだった。

 

「話を逸らさないで。とにかく、仕事の催促をする時はもう少し優しく柔和にお願いします」

「わかりました、譲歩します!」

 

 谷村さんはペコッと頭を下げて、スタスタと歩いて自分のデスクへと向かって行った。

 

始業直後から部下への注意指導から入らないといけないとは、次長も辛いのよ…トホホ。

 

 わたしもデスクに戻って席に着くと、コーヒーを淹れたのでどうぞと手渡してくれるマイエンジェルの波瑠ちゃんが微笑んでいた。

 

「ありがとう波瑠さん」

「いえいえ、お疲れ様です」

 

 波瑠ちゃんがわたしの為に淹れてくれたコーヒーのカップを手に持って口を付けた瞬間、谷村さんの手にもコーヒーカップがあるのが目に止まり、仰天して思わず吹き出しそうになった。

 ニンマリとした顔をして横目で残念でしたと言ってくる谷村さんに、後で塩入りのコーヒーでも淹れてあげようとひそかに思っていたのは内緒でよろしくね。

 


終わり。