番犬ではないあなたと (前編)

番犬ではないあなたと (前編)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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「今年は総務部と経理・財務部合同主催で社内クリスマスパーティーを開催することが決まったから、それぞれ割り当てた役割りをこなしてもらうようにお願いするわ。出勤日の社内行事なのでくれぐれも手を抜かないように先に注意しておくわね。あと、日程と会場の案内チラシだけ作ってあるから各部署に届けてもらうんで……は法務部に、戸田は食品経営企画部(未解決営業部の正式名称) に、新垣は人事部へ行くよう頼むわね、以上」

 

 この会社は社内の大型行事が盛んで、交流会を行ない親睦を深めて早期離職率を下げるというのが社内方針の一つらしい。

 昨年度は法務部と合同だったが、法務部側の企画準備具合や運営が悪過ぎて天海さんが法務部の部長に仕事が遅すぎると怒鳴り込むというトラブルが起こった為か、今年は経理財務部へ変更になったとの話だ。

 

「ねーガッちゃん、経理財務部の部長って確かあの人だよね…」

「高橋 克典部長だよ、それがどうかした?」

「昨年に続いて天海さんがブチ切れそうなタイプだなぁと思ってさ、ちょっと心配してる」

「まあ確かに飄々として面倒ごとはかわしそうだし、忙しいから企画物は後回しにしそうかも。うちの部長は企画物だろうとしっかりやるし、先輩上司男女関係なく厳しいことで有名だもんね」

「そうそう、鬼上司でこん棒を背中に背負ってるって男性陣から言われてたりするしねー、あの怒ってる顔も素敵ではあるんやけど」

「ぁ…トッティー…うしろ…」

「こっちは桃太郎かってくらい鬼上司とバトルしてんのに、よくもまあ軽々しく言ってくれるわホンマに」

「…ごほん、誰がこん棒背負った鬼上司だって?」

「ぎゃっ!?天海ぶちょうどの…いつの間にそちらに…」

「戸田は桃太郎じゃなくてよく吠えて噛み付く犬でしょうが!ここ最近は特に、あんたに噛まれまくってこっちは傷だらけなのよ」

「ムッ、それはガッちゃんを狙って…ぐむーっ」

「余計なことは言わない…ほら、新垣と案内チラシを配りに行って来なさい」

「わかりました、直ぐに行きます。トッティー早く行こう」

 

 ジタバタ暴れて喧嘩腰な態度の戸田の腕を引いて総務部オフィスから足早に去るように出た。

 掴んでいた戸田の腕を離し、暴れて少々乱れている髪を手で梳くように撫でて直してあげたら、気持ち良さそうに目を細めて微笑んでくれた。

 

トッティーはなんでいつも天海さんに喧嘩腰になるの?」

「だって、天海さんがちょくちょくわたしのことを新垣の番犬みたいな言い方してくるじゃない、それが無性に気に入らないの!」

「それは天海さんだけじゃなくても、そう見えてるような気がするけど…」

「何よ、ガッちゃんもわたしのことを番犬みたいに思っているわけ?」

「えっ、なんで? わたしはそんなこと思ってないよ」

「周りと同様にそう見えてるんだったら思ってるってことと一緒やないの」

「だから思ってないし、勝手に周りと一緒にしないで!」

「どうせ出会った時から口うるさい番犬としか思ってないって隣にいたら何となく分かるし、ずっと守って大事にしてるのにわたしの気持ちが結衣には伝わってない…」

「勝手なことばかり言わないでよ!」

 

 わたしは戸田の頬をバシッと平手打ちで引っ叩いて怒りを露わにした。

 

「っ…痛った……なにすんのよ!?結衣…」

トッティーこそわたしのことをこれっぽっちも分かってないし、わたしを守ってくれなんて頼んでないんだから、もう放っておいて!!!」

「あ……ま、待ってよ……」

 


 戸田の制止を振り切るようにエレベーターまで小走りで向かい、数階上の人事部オフィスが入っている階に到着後、急ぎ足で歩いて行った。