その出張、異議あり!(パラレルオフィスラブ)

その出張、異議あり!(パラレルオフィスラブ)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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「来週の頭に大阪行きの出張が決まったんで、ここの指揮は次長に任せていくわ。わたしがいない間は次長の指示を仰ぐようにお願いね。あと、わたしの補佐として新垣を同行させるから、新垣は今週分の仕事はあらかた終わらせて、そのあと出張用の案件以外は新垣には振らないようによろしく、以上」

 

 わたしと戸田が所属する総務部では、朝の朝礼と天海部長の伝達事項が終わると同時に始業となるのが日常的な光景になっているのだが、本日は先程の伝達に異議を唱える、怖いもの知らずが顔を出してきたのだった。

 

「ちょっと待ってください、異議あり!」

「何よ戸田、なんか文句あるの?」

「大ありです!」

「まったく…朝から暑苦しい子ね」

 

 天海さんは前髪をかき上げて不機嫌そうに眉をひそめた。

 天海部長に堂々と自分の意見を言える人間は、この総務部では課長の吉瀬さんと戸田くらいなもので、同僚の多くは課長か戸田を通して物言いをしている事が多々あるという仕事場なのだ。

 脳のお目覚めがまだまだ鈍い朝から、部長に噛み付く戸田のやり取りに、そこかしこから笑い声が聞こえてきたり、この二人に巻き添えを食うようにわたしにも好奇の目がいくつも飛んでくるのが非常に痛かった。

 

「新垣じゃなくて優秀な部下である自分が呼ばれないのはどうしてなんだと言いたいわけ?」

「ちょっとニュアンスが違いますね、新垣よりも従順な部下である自分が…に訂正してください」

「従順な部下が堂々と異議を唱えてることにツッコミ入れていい?」

「ツッコミは私の方が得意です!!」

「そんなことで張り合わないの!!」

「とにかく、どうして新垣を同行させるのか、理由があるなら教えてください」

 

大阪だったら、お隣の県出身の戸田が行く方が、出張先の会社相手にも会話が弾んだりとウケが良いと思い、自分も気になっていると主張することにした。

 

「それはわたしも気になります!」

「ああ、新垣も気になるんだ、まあそうよねー」

 

 総務部の面々は既にデスクに座って始業しているが、二人が繰り広げている出張案件に対して興味津々に耳を傾けている様子がざっくりと見渡しただけでも見受けられた。

 

「それがね、前にうちに出張で来た上役とその部下にお茶を出した新垣をえらく気に入ったみたいで、先方からのご指定なのよ」

「えらく気に入った人達の所に連れて行って、お見合いでもさせるつもりですか?」

「そんなのさせないわよ、わたしだって新垣をそんじょそこらのよく知らない馬の骨に奪われるのは、上司として断じて嫌だもの」

「天海さんも新垣を存分に可愛がっているんですね…ふーん… (結衣はわたしのなのに!)」

「戸田よりも従順でお仕事も丁寧だもの、当然でしょ。だから戸田はお留守番してお土産でも待っていなさい (わたしは恵梨香が一番可愛いのよ!)」

 

 天海さんと戸田はそれぞれ違う人のことを考えながら喋っているような気がした。

 それもこれも、戸田が複雑な関係性にしているのに、本人は何故か恋人よりも親友に強い独占欲を向けてくるから本当に真意がわからないのだった。

 

「それに、天海さんと二人きりになって新垣を襲って食べ…もがもが…ぐむーっ!」

「コラッ、そこまでにしなさい。後は部長室で仲良くやって来てくださいね~」

「あらぁ、吉瀬課長ナイス!その子、奥に連れて行くから、ちょっと宥めてもらっていい?」

 

 なんとも頼もしい救世主様が現れた。

 吉瀬さんに背中をポンポンッと軽く叩かれて幾分落ち着いたのか、そのまま部長室へとズカズカ入って行った戸田を見送った。

 


***

 


 10分程で出てきた戸田はしょんぼりとした顔をして、わたしのデスクまでそそくさと近づくと、半べそをかいていた。

 

「ガッちゃんわたしを置いて行かないで~! 旅行鞄に入ってついて行くもん…」

トッティ〜ヨシヨシ、旅行鞄に入ってついて来てもいいよ」

 

 さっきまでの威勢は何だったのだろうと、椅子に座ったままの体勢のわたしの背中にくっ付いて甘える戸田に苦笑いしつつも、可愛いと思ったのである。

 

 

[登場人物追加]

吉瀬 美智子

天海さんに物申せる貴重な部下の一人。

サバサバ系の姉御肌で、新垣さんと戸田さんを可愛がっていて二人から慕われている。

秘書部から総務部へ異動して、トントン拍子で課長に昇進した影の実力者。