ひとりじゃないよ (おまけ) (パラレルオフィスラブ)

ひとりじゃないよ (おまけ) (パラレルオフィスラブ)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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 昼食を終えてオフィスまでの廊下を無言で歩くわたしと戸田。

 戸田は社員食堂から出てからというもの、キュッと口を結んで不機嫌さを隠す事なくわたしの手を取って強く引いていた。

 先ほどの社食で話されていた内容はまだ飲み込みきれないような、今でも二人が真剣に好意を語りかける表情を思い出すと、胸が煩く騒ついてしまうのである。

 わたしが何を考えているのか薄々感じ取ったのか、繋いだ手を痛いくらい引っ張られたわたしは抗議の声を上げた。

 

トッティー痛い、痛いからっ、そんなに力強く引っ張らないでよ…」

「何よさっきのアレは…愛未に求愛されて嬉しそうに頬を染めちゃってさ、バッカじゃないの!」

「ば、バカ?!バカってなによ、自分だって天海さんのこと考えてニヤニヤだらしない顔してたのはなんなのよ、惚気?」

「別に惚気たっていいでしょ、付き合ってるんだから顔くらい緩むっての」

「へぇー、そうなんだー、それはお熱いことで~」

「何よその言い方、感じ悪っ」

 

 廊下で立ち止まり、わたしと戸田はお互いに遠慮なく思ったことを口々に言い合い、側から見たら口論で揉めているようにしか見えないのだろう。

 

「じゃあ何で愛未にあんな事言ったの?恋人がいる人が言うセリフじゃないよね」

「そ、それは…」

 

 ここで問い詰めて、戸田の本心を聞くのはもしかしたら公平じゃないかもしれないし、有耶無耶になるくらいなら知りたいのだが…その時、思いもよらない横槍が入ってしまうのだった。

 

「見つけた!ちょっと戸田!!」

「げっ、天海さん!?」

「あんたねぇ、親睦会食から突然抜け出して何やってたわけ?お手洗いから全然帰ってこなくて、向こうの部署の上司があんたの身に何か起こっているんじゃないかって、ずっと心配していたのよ」

 

戸田が突然社食に現れたのは会食を途中で抜け出して来たって…

なんでだろう?

昨日までは普通に天海さんとご飯行って来るねーっと、嬉しそうに手を振って去るだけだったのに。

彼女の考えていることがよく分からない。

 

「心配をお掛けして、申し訳ありませんでした…!」

「心配してたのは向こう様で、わたしは怒ってるのよ!上司の顔を潰すんじゃない」

「はい…ごめんなさい…次からはきちんと言ってから抜けるようにします」

「抜ける前提で食事に来るのはやめなさいって、まったくしょうがない子ね…」

 

 怒られてしょんぼり顔の戸田を珍しく見たので、少し得した気分になった。

 天海さんの方は相当手を焼いているらしく、悩ましげな顔で前髪をかき上げていたが、横で佇むわたしを見て、面白いものを見つけた瞳で近づいて横に並んで来た。

 

「戸田から聞いたわよー、新垣も会食に興味があるんだってね」

「ええっ、その…あるような、ないような…」

「どっちよ~まあいいわ、新垣はうちの部署でも顔も性格も良いって評判だから、こっちからお願いしたいところよ」

 

 天海さんは話しながらわたしの頭を撫で、それから肩に腕を回して抱き寄せられたりと、されるがままだったが、次の瞬間驚愕の事態が起きた…

 突然、戸田が天海さんからわたしを引き離し、そのまま体を壁にドンッと押し付けられたと思った瞬間、唇を奪うように塞がれていたのだった。

 驚きのあまり目を見開いたまま固まってしまい、戸田にキスされたと認識するのはだいぶ後のことで、二人が話し出すまで状況の理解が一切出来ないでいた。


「恵梨香…あなた、それはどういうつもりなの?」

「天海さん…どれだけわたしが愛するあなたでも、新垣に指一本触れるのは許し難い行為なので…というか、触らんとってくれます?」

「へぇー、やっぱあなた最高に面白い子ねぇ、わたしったらだいぶ見る目があるわ~」

「それはどうもありがとうございます。結衣、行くよ」

「………ぁ……トッティー……」

 

 再びわたしの手を繋ぐ戸田の手は、大事な物を扱うようにとても優しかったのでした。

 


おしまい。