ひとりじゃないよ (後編) (パラレルオフィスラブ)

ひとりじゃないよ (後編) (パラレルオフィスラブ)

 

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 

 

 わたしが先ほどまで座って食事していた席には戸田が居るため、隣の椅子を引いて腰を下ろした。比嘉につねられて赤く染まっている戸田の頬に片手を伸ばし、さすって動いている手にそっと重ねると、片目でウインクして大丈夫だからと戸田は言った。

 そして、わたしが重ねた手を降ろしたのが会話の再開の合図となった。

 

「ごめんってば、恋人出来たって報告しないといけないと、ここ何日か前から思ってたんだけどね、えへへっ」

 

 戸田はにやけ顔で、怒られているのにどこ吹く風みたいだ。

 

「恵梨香の報告の遅れとかはどうでもいいのよ」

「ふーん、じゃあ何で怒ってんの?」

「何でわたしが怒ってるのかわからないの? そんな恋に浮かれた頭では考えもしないでしょうね」

「別に頭の中は浮かれてなんかいないし、突然つねられたこっちは何をどう考えたらいいのか分かるわけないでしょ」

 

 二人の間にはピリピリとした空気が流れていて、普段はとても仲良しな二人の不穏な会話にわたしはやきもきしていた。

 そんな中、比嘉は憂いを帯びたわたしの表情を見つめて敏感に察知し、慰めてくれた時の優しい顔つきに戻って、落ち着いた口調で話出した。

 

「わたしは、恵梨香が隣にいつも居てくれるから、自分は一歩下がった場所で見守って支えているだけでいいと、これまでは密やかに思ってきたの…」

「んんー…うん?」

「でも、日に日に落ち込んでいく姿と涙をたくさん溢した苦しげな顔を見て、恵梨香に結衣の隣は任せられないというか…」

「ま、愛未…それって」

「結衣を泣かせた恵梨香にはもう遠慮しないって決めたから、これからはわたしが一番隣で見つめて支える。だから結衣と一緒にいたい」

 

 比嘉の言葉はまるで愛の告白のようだと思い、胸の高鳴りを感じて熱くなっていく頬と胸の鼓動が二人に聞こえてしまわないかと、焦らずにはいられなかった。

 

「えっと…それはもしかして…まなみーがガッちゃんのことを前から大事な子だと思ってて、わたしがここ最近殆ど構ってあげてなくて泣かせたから怒ってて、一番隣を譲れって事なの?」

「うん、わかってるならもういいよね。結衣、あなたはひとりじゃないよ、わたしがいるからもう寂しい思いなんてさせない」

「ありがとう愛未…でもね、わたしは自分の意思で隣にいたいと…」

 

言い終わるのを待たずに、俯いていた顔をキッと上げた戸田から大きな声が発せられた。


「やだ!絶対やだ!!」


「はい?」

「えっ?」

 

思ったことや感じたことは包み隠さず伝えるタイプの戸田らしい一言に、この場の緊迫とした空気を読まずに笑ってしまいそうになったが、なんとか堪えた。

 

「ガッちゃんの一番隣は誰にも譲らないし、まなみーには絶対に渡さないもん」

「はあ?! あんた恋人がいるのに何言ってんの?」

「あのね、愛未が大事に思ってる以上にわたしも結衣のことを大事に思ってるってこと!自分に恋人が出来ようが、誰にも結衣に指一本たりとも触らせたくないから!」

 

 真剣な顔つきでわたしの瞳を見つめる戸田に、大好きな気持ちが沸々と上昇していくみたいで戸惑ってしまう。

 

「とっ、トッティー?!急に二人からそんなに大事大事って言われても困るよ…というか、わたしも二人のことがとても大事だし…」

 

 比嘉も戸田もどちらも同じくらい大好きだし、二人には変わらぬ姿勢で接したり、甘えたり甘えられたり、社会人として支え合いながら隣にいたいと願っているので、特別な存在を今この瞬間そう簡単に決めることなんて出来ないのが、心の奥にある気持ちだ。


だからわたしが今伝えられる返事は…


「二人のともわたしにとってかけがえのない存在で…どちらか片一方が特別なんて選べないくらい大好きなんだよ」


 三人の関係が変わっていくことをこの瞬間止められたらいいのにと、わたしはそう願わずにはいられないのだった。