ひとりじゃないよ (前編) (パラレルオフィスラブ)

ひとりじゃないよ (前編) (パラレルオフィスラブ)

 

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 

 

 あの人の動向で関係性が変わったことを明白に示しているのが、手に取るように分かった。

 あの日から二週間くらい経ち、三日に一度は出勤を共にして来るし、部長の補佐として社内会議にも連れて行く様になっているし、帰りだってわざと時間をずらすように仕向けているようにしか見えない。

 そして極め付けは、昼食の時間にまで手が及んでしまっているのだ。

 わたしが毎日あの子と一緒にいられる和気藹々とした楽しい時間を、あの人に奪われてしまった。

 

トッティー、今日のお昼は?」

「ごめん、社内親睦会食に同行するんだ」

「それ、最近増えたね」

「うん、この部署の仕事は社内環境の整備と把握と親睦も大事なんだって」

「ふーん、わたしには声が掛からないのはどうしてだろうねー」

「それなら、天海さんに話してみよっか?」

「えー…親睦会食したいわけじゃないし、別にいい」

「別にいいんかーい!…何のこっちゃ意味わからんし。まあ、また社食行こっ」

 

 わたしにニッと笑って手を振りながらデスクを後にする、戸田の背中を見送るしかなかった。

 

できたらお昼くらいは毎日一緒に食べたいと言いたい。

もっと気軽に声掛けて一緒にいられた筈なのに。

手を伸ばせばきっとまだ届くと思っていたのが甘かったのだ。

 

 仕方なくひとりで社員食堂へ向かい、入り口でもう一人の親友を待つことにした。

 今の自分の顔を誰にも見られたくなくて、俯いてスマホのアプリを無心でチェックしていた。

 

「結衣、お待たせ」

 のそのそと顔を上げると優しく目を細めて笑う比嘉が、目の前まで来てくれていた。

「あれ、今日も恵梨香は別なの?」

 キョロッと辺りを見渡してから、なんだろうねという表情の比嘉にどうしてなのか声が出せなくて、再び俯いてしまう。

「どうしたの…結衣、わたしでよかったら何でも聞くよ」

「…うぅぅ…」

「ちょっとだけ場所ずらそうね…」

 社員食堂の入り口付近から少し離れようと、比嘉はわたしの背中に手を添えて歩いてくれた。

「よしよし…結衣…泣いても大丈夫だよ」

「…ぅぅ……わぁああん……」

 比嘉の腰に腕を回して肩に顔を埋め、声を上げて泣きながら止まらぬ涙が溢れた。

「…愛未……わたし……寂しかったの……それだけ…なの…」

「そっかぁ、そうだね…」

「ごめんね…涙が…止まらない…」

「ううん、大丈夫。…いつも一緒だったし、寂しいよね…結衣も」

「……ぶえっ…まなみぃ…」

 優しく背中を撫でてくれる比嘉も薄々気づいていたのだとわかった。

「…ぁ…結衣もってことは、愛未も気づいてたの…?」

「まあ、わたしは直接言われてないけど、二人が一緒に居る日が極端に減ってるし、何となくそうなのかなぁとは思ってたよ」

 肩から顔を上げて比嘉と向き合うと、ハンカチを取り出して頬を拭ってくれた。

 もう一つオマケに、ティッシュを鼻に当てて拭ってくれる彼女は良く出来た良い子だと思った。

 ティッシュをゴミ箱に捨てて、そろそろ食堂でお昼食べようと明るく声をかける比嘉は、わたしの背中をさすりながら連れて行ってくれた。

 昼食セットを購入し、トレーに乗せていつもの席に向かい合って座る。

 

「いただきます、あっ、愛未の豚の生姜焼き美味しそう」

「じゃあ、結衣の唐揚げ一個と交換しよう」

「えー、この漬物にしない?」

「しないって。くくっ、豚肉と漬物では釣り合ってないでしょ」

「そうだよね…釣り合ってないと思うんだ…どうしてなんだろ」

 唐揚げを頬張りながらも、今ここにいない親友の顔や仕草を考えずにはいられないみたいだ。

 お味噌汁をすすり、ご飯をもくもく食べる比嘉に、どこからどこまで話すべきか悩んでいるのだった。

 


[登場人物追加]

比嘉 愛未

新垣さんと戸田さんよりも二つ年上で一年入社が早い先輩。

二人とは親友でとても仲が良く、お家へ行き来したり飲んだり、休日も時々遊びに行ったりしている。

人事部所属 仕事中は冷静沈着かつユーモラスで明るいタイプ。

新垣さんのことを気にかけている。