四国旅行のおみやげSSS (その6) ラスト

四国旅行のおみやげSSS (その6)

ドライバー② (しほゆき)

オペ中の真剣な姿とはまた違う引き締まった志帆さんの横顔に、胸の鼓動が早くなる

「橘先生の運転は久しぶりですよね」

「ん~そういえばそうね」

「前に運転したのは……いつでしたっけ?」

普段はほとんど自分が運転している

運転自体が好きだけど、何より助手席に座る志帆さんに世話をしてもらうのが好きという理由だ

「えっとねぇ、三週間くらい前に、植松先生と里見先生から新田先生に飲ませすぎたから迎えに来てって呼び出された時よ」

「えっ…そんなことありましたっけ?」

「あったよ、忘れちゃったの?」

「覚えていません」

お酒をたくさん飲んで記憶が無くなるなんてことあったかな…

全く覚えていないし、里見先生達から何も聞いていない…なんで?

「そうなんだ!ふふっ」

「橘先生が思い出し笑いするという事は、なんかあったんですか?」

「あったあった」

「な、何ですか?」

「先生じゃなく名前で呼んでくれないから教えなーい」

「名前呼びは慣れないんです…」

「えーっ、最中は何度もしほさん可愛い…しほさんの舐めていい?とか、しほさんのナカ(待ってくださいストップ!)っていっぱい呼んでくれてるのにね~」

恥ずかしいから昨晩の彼女の記憶を消して欲しい

いや、記憶が消えては困る

わたしが愛した体と心の記憶、もっともっと残したい

でも、やっぱり恥ずかしいのは変わらない

「わたし、志帆さんの運転は丁寧で好きです」

「あははっありがとう、雪野さん。って、上手いこと話逸らしたね」

「そりゃあもう慣れてますので」

「あたしも好きだよ、雪野さん」

「運転が、ですよね」

「それもだし、全部まとめて愛してるよ」

何の躊躇もなく正直に想いを伝えてくれる志帆さんをわたしも愛してる

今は言わない

いつもこまめに伝えるより、大事なシーンで伝えようと決めているんだ

「…志帆さん、きちんと名前で呼んだんですから、思い出し笑いの理由を教えてください」

「そうね。…あの日、植松先生と里見先生に二軒目まで連れて行かれた雪野さんは、許容超えて飲んだみたいで、『志帆さんが車で迎えに来てくれなきゃ帰らない!』とごね酔いして困った二人からヘルプの電話をもらって駆けつけたの」

「・・・・」

「急患の緊急オペでバタバタした日でだいぶ遅めに帰宅して、お酒を飲んでなかったから無事に行けたし、着いた後も二人の目の前で熱烈な抱擁とディープなキスをしてくるものだから、さすがのあたしもアレは恥ずかしかったよ」

「…な…なんてことなの……」

わたしは冷凍蜜柑の様に一瞬で凍り付いた…

「安心してよ、二人にはきっちりと口止めしてあるから」

「そうか…口止めしてあるから何も言われないし顔にも出さなかったってことなんですね…」

最悪の失態を犯していたなんて、穴があったら入りたいし、今すぐ首を括りたいくらいだ

しかし、それだけはしてはいけない

志帆さんが愛して止まない人物をこれ以上失くすことは耐え難い苦痛を伴うだろう

自惚れてはいけないけど、わたしは志帆さんの中でも存在が大きいのは確かだから…

「自分を求める大事な存在が居てくれると考えたらさ、生きてて良かったーって真央と雪野には感謝しないとね」

「…はい。と、失態の件は申し訳ありませんでした…」

「いいのいいの、あたしも見せつけられて満更でもなかったというか、雪野のだからって言わずもがな二人共察してくれただろうし」

「そうですね」

「うんうん、雪野は今あたしのことだけ考えてちょうだい」

「はい…あの…わたしも志帆さんの全てを愛しています」

照れくさそうな横顔が、真っ赤に染まっていたのは夕陽が差しているからだろう、ということにしておいてあげますね…

 


…完走。