I want to share true love with you.

I want to share true love with you. (オフィスラブ)

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

*本文の無断複製・転載等行為を禁じます。

 


 誰よりも先に隣を陣取って来たのは彼女の方で、わたしは自分から隣の席を取ることはしない。

 色恋沙汰の椅子取りゲームに自分から負けに行く分には一向に構わないし、寧ろわたしが負けて身を引いてくれることを望んでいる人間が多数いるのがわかっているから、そんな人間に対して鬱陶しいなと内心では思っているものの、誰にも言わない。

 飲み放題だから飲まずにはいられないとはしゃいで、次から次へとグラスを空にしていく隣の彼女に呆れながらも、こっそりと腰に腕を回されているので逃げ場がない。逃げるつもりもないとも言える。

 挙げ句の果てに、部署違いの女子にまで愛嬌良く話しかけてるくせに、わたしが男性社員から話しかけられ答えているのが気に入らないとばかりに、飄々とした態度でうまいこと言いくるめて彼らを遠ざけてしまうのは彼女の得意技なのかもしれないと妙に感心してしまうのである。

 

 お店から出ると呼んでもらっていたタクシーに同伴者を押し込むように乗せた。時々倒れかける上半身をグラグラさせて枕が欲しいと所望してくるものだから、仕方なく膝を貸してあげることにした。そうしたら、何のためらいもなく膝に頭を乗せて頬を擦り寄せながら顔をこちらに向け、目を細めて嬉しそうに微笑むから反応に困る。

 酔っ払いの面倒なんて家族以外ではとてもじゃないけどみたくないし、世話好きなタイプでもないのに何をやっているんだろうと思いながらタクシーから降りると、今度は肩を貸して足がおぼつかない相手と歩き、肩にかかる重みを感じて溜息をついた。

 

 もうすぐ着きますよと伝えても、うーんという生返事しか聞こえて来なかったのは想定内だ。ただ、マンションのドアの前に着いてから鍵をどうすべきかと悩まされることは想定外だった。

「お家着きましたよ~、鍵どこに入れてますか?」

 おーい鍵さんどこに行ったの~?とトンチンカンな答えが返ってきたからさあ大変。

 肩を貸したままだと鍵を探せないんですけど!と言いながら肩を揺すっても反応は鈍く、こうなったら地べたに座らせて自分が探るしかないと早々と決めて、酔っ払いをそっとその場に座らせてから失礼しますと一声かけて、ジャケットのポケットをごそごそ探っているとようやくお宝であるキーを発見し、鍵を開けて一人では動けない酔っ払いを抱きかかえ扉を閉めて施錠した。

 

 玄関で靴を脱がせてズルズル引っ張るように抱きかかえてきた彼女をソファーの上に座らせて、常温保管されているミネラルウォーターをグラスに注いでキッチンからリビングへと戻り、彼女の目の前でグラスを静かに揺すって見せて声を掛ける。

「はい、お水飲みましょうね。イヤイヤ首を振ってもダメです。それに、もう膝は貸しませんから」

 グラスを渡そうとするとプイッと顔を逸らすし、子供みたいにイヤイヤ首を振って不機嫌さをアピールするのは飲ませて欲しいという意思表示なんだろうけど、そう易々と甘やかしてはあげない。

「うーん…じゃあ抱っこして飲ませて…」

「さっき抱きかかえてここまで連れて来たんですよ、もうこっちはクタクタなのを察してくれませんか」

「OK了解。よしっ察したからお願い、抱っこしてよ…」

 お酒をあまり飲まなかったはずなのに、頭から重力を感じたわたしは彼女の横に腰を下ろし、その身を引き寄せて背中に腕を回してあげると、安心した様子で肩に額を擦り寄せてくる姿に頬が緩む。もう一つオマケで頭も撫でてあげた。

「なんでわたしに頼むんでしょうね…あなたに従順な人はあちこちいるのに、ホントおかしな人」

「この家にはあなた以外入れたくないのよ…あたしがこんなこと言ってもにわかには信じ難いだろうけど、あたしは家族とあなた以外誰も信用してないから、どんなに口説かれてもこの領域に入れるつもりなんてないの」

 いつもだったら、誰にでもそういうことを言って相手の心を自分に向ける口実だと軽蔑的な物言いで返すのだが、彼女は酔っ払っていてもわたしへの信頼は決して揺らがないらしく、返す言葉が難しくなってしまうのだ。

「でも、わたしの他に一人だけ入れてもいいと思う子がいるんでしょう? …はい、お水飲みましょう」

「ああ、あの子だったら信用できるかもしれないね…やだ、飲ませてくれないと飲まない」

「普段は軟派なのに本性は硬派なんて、あの子にも教えていないんですか…?…これ早く飲んでもらえませんか」

「そんなことわざわざ教える必要ないじゃん…だから飲ませてよ~」

 グラスの押し付け合いが永遠に続きそうだと感じ、ここはおとなしく押しに負けてあげることにした。

 わたしはグラスの水を口に含み、彼女の頬をこちらに向けてその口元をそっと塞いでゆっくりと水を口内伝いに移していく。コクンコクンと飲み込んでいく喉元の音が聞こえて、唇を離してはグラスの水を口内伝いに移していく行為は水がグラスの底をつくまで続くのだった。

「ふぅ…紗季ちゃんの美味しい唇とお水、ごちそうさま」

「酔っ払いのお世話して唇まで美味しくいただかれて、はいお終いっていうのは無しですよね…羊さん」

 

 目を細めて彼女の瞳をじっと見つめていると、これだと自分から誘惑してるみたいだなって頭の隅でポツリと呟く冷静な自分がいる。彼女は何を考えているのだろうか…

 


…続く。