魔女の鮮血~矢代の激昂~⑨

魔女の鮮血~矢代の激昂~⑨

 

 いつかこんな日が来てしまうと、職業柄覚悟はしていた。

 だからあの日心に鋭く投げつけられた『一生一人(独り)でいろ!!』という言葉どおり、一人で生きていくと同時にこの世から去る瞬間も一人きりだと思っていたのに、どうやら目の前の彼女はわたしの思うようにはさせてくれないようだ。

 


「…まだまだあなたには教えたいことも話したいこともある…あなたを残してはいけないって言ったこと憶えているよね…?」

 


 泣くのを必死に我慢して、時よりぐっと歯を食いしばりながらも毅然として言葉を紡いでいる彼女から強い生を感じる…

 


「朋、わたしと一緒に居てくれる?と聞いたのは、こういう時に駆けつけて欲しいと願っているからでしょ…?」

 


 そうだ…どうしてこの生と死の境目の様な状況で、彼女がわたしの目の前に現れたのか、本当はこの世に引き留めて欲しいと、愛しいあなたを残してはいけないと自らが望んでいるからなのだとようやく気がつくのだった。

 


「わたしはあなたを一人になんてさせない、ずっと一緒にいよう……理沙」

 

 彼女の瞳から溢れてしまった雫はキラキラと輝きを放ち、その顔にはわたしの大好きなとびっきりの優しい笑顔が浮かんでいた。
 テーブルの上に置いているわたしの片手を包み込んでいる手に力が込められてぐいっと引かれ緩慢な動作で立ち上がるも、石化していくように体が重くなり限界に近づいていた。

 


「…朋……もうだめ……体の自由がもう利かないわ…」

「大丈夫、わたしの血が理沙の中に入ったよ…絶対に助けてあげるから…」

 


諦めないで!!(諦めてはだめよ!!)

 


 彼女に…朋に抱き寄せられたわたしは、体中に温かい血が巡るように流れていき、混じり合って溶けていくような熱さに体が押し上げられ、わたしは息を吹き返したのだった。

 

 

 

 救急救命の治療室の医師達は、心肺停止してから懸命に心肺蘇生法継続中で、なかなか戻って来ない状況に焦りを感じていたが、橘先生だけは彼女は絶対に戻ってくると信じて諦めずに心マッサージを続けて功を奏したのか、生体情報モニタに反応があると室内に安堵の声が漏れた。

 


「モニタに反応あり!」

「橘先生、微弱ですが…脈拍回復しました!」

「来たわね!彼女の輸血がよく効いたのね…これこそ愛の奇跡、ねっ新田先生」

「愛の奇跡って何なんですか?まだ気を緩めないでください!」

「分かってますって、よし、呼吸も回復!このまま輸血と加温を続けながら止血機能を回復させて、手術を再開する流れに持っていくわね」

 

 

…続く。