あなたを外に連れ出すために! (前編その二)

あなたを外に連れ出すために! (前編その二)

 


 朝が早いこともあり、まだまだ涼しくて駅構内へと入って行く人も疎らで、先輩にとっては今だったら好環境だろう。

 


 先輩の最寄駅で待ち合わせをして、早々と到着しガイドブックを読み直している。

 先輩来てくれるかなぁ…やっぱり人混みは嫌だし今日は紫外線がきつそうだから行かない!なんてドタキャンして来るかもしれないと内心ハラハラしているのだ。

 先輩に限って約束を守らないというのは考えられないか…

 


 恋人と駅で待ち合わせするというのも慣れておらず、スマホの時間を分毎に確認したり、待ち合わせ場所は間違いはないかとその場でウロウロしてしまったりと落ち着かない。

 心を落ち着かせるように、先輩の外出着を想像することにした。とは言え、いつもの黒ずくめの組織みたいな格好しか出てこない…

 しかし、普段着は黒ばかりというわけではなく、カジュアルファッションからゆったりとしたワンピースを持っていて、お家の中では着ていたりするのだ。

 仕事着はどうして黒づくめなんだろう…?今まで疑問に思いつつも聞いたことがなかった。

 


「先輩はコナンくんじゃなくて、黒ずくめの組織の人間っぽいんだよねー」

「誰が黒ずくめのコナン・ドイルよ、朝から独り言がうるさい子ね」

 


 大好きな先輩の声が背後から聞こえて、慌ててそちらに振り返った。

 


「わわっ来てたんすか!?待ち合わせ時間はまだ余裕あったのに驚きました」

「早く来て悪かったわね、わたしだってあなたに早く会いたいと思ったのよ…」

 


 先輩の格好を上から下まで見入ってしまい、わたしは全身に甘い痺れが走った。

 予想していた全身黒ずくめの先輩ではなく、サングラスと日傘だけはいつも通りで、上は涼しげなV字カットの半袖Tシャツにゆったりしたワイドパンツを履いていて、仕事場での雰囲気が嘘のように美しく彩られた先輩がいる。

 そっぽを向きながら頬を染めている姿がサングラス越しでもわかり、わたしは先輩にガバッと飛びつくように抱きついていた。

 


「あぁああ、もう本当に理沙さん可愛すぎますよぉ~!そんな可愛い姿だと誰にも見せたくないです!」

「バカホルス!!恥ずかしいからこんな場所で抱きつかないで、離れなさいよ」

「イヤです、もう二度と離しません!」

「朋、とりあえず落ち着きなさい…とーっ!!」

「イタッ…理沙さんの愛の鞭が頭に一発入りました…」

「軽くチョップしただけでしょ、そういう過度なスキンシップはお家だけにしてもらいたいわ」

 


 先輩に体を離されてしまい、唇を尖らせて不満を訴えるも、大人しくしていないと今すぐ帰るわよと言いたげに、眼光を強く放っている先輩に圧倒されたわたしは縮こまるしかなかった。

 


 先輩と共に電車に乗りこみ、目的地は某テーマパークだ。車内の椅子に並んで座って先輩に今日のスケジュールを簡単に説明したり、行きたくない場所を事前に確認したりと会話はスムーズで問題無かった。

 


「ホルスが持っているガイドブックを一読して、少し気になった部分があるわ」

「はい、何でございましょう?」

「その聞き慣れない口調は何?」

「事前にゲストの気分を味わってもらおうと思ったんすよ。それで少し気になった部分とは何ですか?」

「この、今日行く側のマップを見ていると随分と広大な土地のようだけど、移動が大変そうだと思ったわ。実際のところどうなの?」

「さすが先輩は鋭いですね!自分が以前行ったのは10年前くらいになるので、その時は一番体力的に怖いもの無しという…(悪いけど、あなたの若さ自慢は聞きたくないわ)すみません、歩き回るには体力が必要だと言いたかったんすよ」

「…もういっそのこと歩き回るのはやめて、レストランで一人お茶していてもいいかしら?」

 


 先輩はガイドブックを読みながら、デザートでも美味しいレストランはないかしらね~と歩き回るという選択肢を排除にかかり始めているようだ。

 わたしも負けじと先輩の意見も取り入れて、計画して来た内容でフォローしていく旨を伝えるのだった。

 


「それじゃあ一緒に行く意味がないですから。先輩が過ごしやすいように室内施設のアトラクションとショーをピックアップして来てるんで、安心してください」

「そうなの、約束どおりに考えて来てくれたわけね」

「もしも脚が疲れた時は、おんぶでもお姫様抱っこでもしますんで、任せてください!」

「そんな恥ずかしいこと誰も頼まないわよ!」

 


 わたしは先輩の脚が疲れて拗ねたり文句を言う姿しか思い浮かばないのですが、そんなところは普段からよく見ている光景なので、気にせずにおんぶをしてあげるくらい余裕の心持ちでいる。

 脚の間にそっと手を滑り込ませて先輩の片手を握り、恋人としての時間を存分に楽しみたいという思いを込めて、優しく微笑んで握った手の指を絡めるのだった。

 


…続く。