あなたを外に連れ出すために! 前編

あなたを外に連れ出すために! 前編

 

 わたしはどうしたら先輩と一緒にテーマパークでデートできるのかを、ずっと前から考えていた。先輩とお付き合いを始めてからというもの、外出するデートと言えばせいぜいショッピングか、どうしても行きたいとベッドの上で転がり回ってごねた末に渋々OKをもらって水族館へ行ったくらいだった。

 彼女の(彼女って良い響きだなぁ!)極度の出不精を考えると、遊園地やテーマパークなんて絶対に行ってくれないだろうから、行かないわけにはいかない方向へと話を持っていかなければならないと、わたしはシワの少ない脳をぎゅーっと捻り作戦を練って決行することにした。

 

 先輩の執務室へ失礼しますと言って入り、椅子に座って本を読む先輩に声を掛けて話し始める。

 

「先輩、今お時間大丈夫でしょうか?」

「何よ改まって、あなたらしくないわね」

 

 先輩はわたしが入室してから声を掛けるまでは本から顔を上げない。本を真剣に読んでいる姿を眺めてるのも好きだから、わざと声を掛けるタイミングを遅らせることもあるのだ。

 

「先輩、今週末の土曜日空いてるって言ってましたよね?」

「言ってたわね、それで?」

「じゃーん!ディズ○ーSeaのチケット予約したんで一緒に行きましょう♡」

 

 ジャケットの胸ポケットからコンビニ発券機で予約してきたチケットを取り出して、高々と頭上に掲げて先輩に見せびらかした。

 

「ちょっと待ちなさい、普通は前もって行きませんか?って聞くでしょう」

「前もって聞いたら絶対に行かないって言うじゃないすか」

「言うわね」

「ほら~だから、前もって予約して来たんです」

 

 先輩は眉間にしわを寄せてわたしをじっと睨みながら、お決まりのセリフを言った。

 

「行かない」

「行きましょう」

「紫外線、花粉、ピーエム2.5、人混み、家族連れ、カップル、全部嫌なの」

「たまにはいいじゃないすか」

「よくないわ」

「自分達だってカップルなんですけど」

 

 ああ言えばこう言う、こういうところも含めてわたしは好きだ。だって先輩が気を許してくれている証拠だから。

 

「じゃあ、土曜日だけカップルをやめるわ」

 

 とんでもないことをさらっと言う、普通の人間の思考じゃない先輩だ。

 

「土曜日だけ別れて、日曜日は元に戻ってるんですか?」

「ええ、そうよ」

「本気で言ってます?」

「本気で言ってるわ」

 

 一日限定でカップルになって欲しいというのは聞いた事があるけど、一日限定でカップルを解消するというのは斬新というか、正直変な発想だと思ってちょっと笑ってしまう。ほら、面白くて可愛い人でしょう?

 

「ぷっ、先輩ってやっぱり変人なんすね~」

「勝手に予約してきたあなたに言われたくないわよ」

 

 わたしが笑った姿を見て、少しムッとした顔になっているため、このままだと機嫌だけ悪くなりそうなので、先輩が興味を持ちそうな方向へ話を進めていくことにした。

 

「Seaだったらお酒が飲めますよ」

「お家で飲んだらいいでしょう」

「うきわまんが食べたいっす」

「うきわまんって何?」

「気になります?」

「気になったから聞いてるんだけど」

「じゃあ一緒に行って実物を見てみましょう」

「うきわまんが食べたいだけなの?」

グーフィーとプルートに会いたいんです」

「あなたも犬好きだものね」

 

 先輩もわたしも愛犬家だということをつい最近知って、飛び跳ねるくらい嬉しかった。二人の共通の好みがあるって、あの気難しくて人間と距離を置いている先輩から考えると奇跡に近いので尚更嬉しいのである。

 

「ほら、気になってきてる。グーフィーとプルートは分かるんですね」

「それくらいは知ってるわよ、馬鹿にしないでくれる?」

「へぇー、では頭の良い先輩だったらディズ○ーのキャラクターも全部暗記できて、見ただけで直ぐに答えられるんですか?」

「そんなの未解決事件と比べるまでもなく簡単よ、どんだけキャラクターの数がいようと、わたしが覚えられないわけがないもの」

「待ってくださいね…えっと、ディズ○ーキャラクター数を検索すると…全295種類(*現在進行系で増えていっています)だそうです、こんなにたくさん本当に覚えられるんですか?」

「ホルス、わたしの頭脳を舐めてもらったら困るわ、三日もあれば全キャラクター暗記してあなたに一から十まで解説だって可能よ」

 

 誘導作戦は成功した。先輩はまんまとわたしの罠に引っかかってくれたので、わたしは王手をかける駒を進めた。

 

「土曜日はちょうど三日後なんで、先輩の頭脳を証明してもらってもいいすか?まあ、わたしは先輩が全然覚えられなくても一向に構わないのですが…」

「いいわ、きちんと証明してあげる。そのかわり朝の涼しい時間から行って、昼間の時間帯は室内にいられるようにホルスがプランを考えること、それでいい?」

「はいっ!パークで一日過ごす本も数冊買ってるんで楽勝すよ。理沙さんとテーマパークデートができるなんて幸せだなぁ…ありがとう理沙さん、大好きです!」

「相変わらず暑苦しい子ね。はあ…約束しちゃったし行くしかないか……わたしも朋、あなたのことが大好きよ」

 

 三日後までに二人はそれぞれプランを考えたり、キャラクターを暗記するために本と資料を読むことに集中していき、デートの当日を迎えることになった。

 


…続く。