ある日の残業と居眠りさんと

 

 

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ある日の残業と居眠りさんと (未解決のオフィスラブ)


 自分の作業行程が捗っておらず、残業に付き合わせる形になって謝ったら、後輩が困っているのに見過ごせないじゃないと優しく言ってくれた先輩がとても頼もしく思った。


 節電の為かところどころ照明を消していて、この部署も若干ながら薄暗い部屋になっていたが、晩になっても作業に残る人間が少なめで、極力残業をしない事が方針なのはこの会社の良いところだった。


 パソコンで資料を作成しながらふと気になって奥側のデスクをちらっと覗き見ると、京香さんがうつらうつらと居眠りしている姿が見えた。


(京香さんの居眠りなんて珍しいかも…寝顔がすご~く可愛いんだよねぇ、残業してる時にコーヒーが切れたらよく眠くなるって言ってたなぁ)


 今だったらちょうど居眠りでいうと一番眠りが深い瞬間だろうと思い、自分のデスクから静かに立ち上がってこそこそ近づいて行った。


 右手にシャーペンを握り、左手に頬を乗せてデスクに肘を突いて眠っている京香さんに近づいて、気配を察知されないくらいの位置に立って観察することにした。

 普段の京香さんからは、よく飲んでいるコーヒーの香りがすることが多かったりするのだが、今は愛用しているらしいフレグランスの香りがして、もうその香りだけでも頭の中はふわふわと心地良い気分になるのだった。


(ふわぁああ、京香さんのフレグランスに酔いしれてしまいそうだ…いけないいけない!あんまり近づくと覗き見しているのがバレちゃうじゃないの)


 一歩ずつ京香さんの香りに誘われて距離を詰めていると、あっという間に目と鼻の先の位置まで来てしまって変な声が出そうになって慌てて片手でお口を閉じた。

 わたしが目の前まで来ていることに全く気がついていないのか、もしかしたら既に目が覚めているのかいまいちわからない中、ボソボソと何か言葉を呟いているのが聞こえた。


「…うー……谷村……さ…ん………は…………ん……だ…め……」


(…ぇ!?…今のってどういう意味なんだろう…もしかして京香さんは美月さんのことが…)


「ただいま~お夜食買ってきたよ。あれ?波瑠ちゃんそこで何してるの??」

「わわっ…み、美月さん、帰って来ていたんですね!?お、お夜食の買い出しに行かせてしまってすみませんでした」

「別にそれは全然構わないんだけど、鈴木次長のお弁当はこれでよかったかだけ見てもらってもいい?」

「了解です…えっとこれで大丈夫だと思います」


 先輩の谷村さんがわたしに付き合うように残ってくれて、つい先ほどまでお夜食の買い出しに行ってもらっていたのである。

 わたし達の会話でようやく目が覚めたのか、京香さんはあくびを一つしてから体をググッと伸ばした後、ようやくこちらに気が付いたのか、慌てて居住まいを正して挨拶をするのだった。


「おはよう、ちょっと居眠りしてしまっていたみたいね」

「鈴木次長が寝てくださっていた方が、わたし個人は作業効率が良いとは思いますけど…波瑠ちゃんはそうでもないみたいですが…」

「あはは…美月さんってば何言ってるんですか~!お腹も空きましたし、お夜食タイムにしませんか?鈴木次長はオムライス弁当が前に食べたいとおっしゃってましたよね」

「あら、居眠りしている間に買い出しに行ってくれたのね。ありがとう、谷村さん」

「いいえ、とりあえずは何も無かったみたいで安心しましたよ。お夜食代は鈴木次長の奢りでお願いしますね」

「何も無かったって何だろう…??」


 京香さんは頭に疑問符を浮かべながら、オムライス弁当が入った袋をわたしの手から受け取ってくれた。

 わたしは先程まで京香さんの目と鼻の先まで距離を詰めいたことは内緒にしとこうと思い、休憩スペースに移動する美月さんを見つつ、京香さんに一緒に食べましょうと声を掛けた。


「さっき居眠りしてる最中に、波瑠ちゃんの香りがした気がしたのよ…たぶん気のせいではないとは思うんだけどね」

「あ、あはは…京香さんには隠し事は出来ないみたいですね」


 そのあとは三人で仲良くお夜食タイムを楽しむのでした。

 

 

おしまい。