あなたがわたしで、わたしがあなた ⒉

 

*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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あなたがわたしで、わたしがあなた ⒉

 


 次のシーン入りますので、準備お願いします!

 

 ああ、ついに来てしまった…鳴海先輩の台詞自体はいつ来るのか台本段階では詳しく分からないという、遠隔操作で自分が言う可能性を考えてだいたい頭に入っているのですが、自分が理沙を演じるとなるとまた違う人間になってしまうのではないのかと怖気づいてしまうのである。

 

 鈴木さん出番準備お願いしますと声をかけられて、わたしは理沙の一室へと歩いて行く。室内に入って深呼吸をして首を回していると、ガチャッと音が聞こえて振り返るとわたしの姿をした京香さんが背中に両手を回して立っていた。

 

「次のシーンもう始まりますよ」

「10分だけ集中する時間を貰ってきたから、あなたの好きに使ってちょうだい」

 ホルスの目が細められて優しく微笑むわたしが京香さんに見えて、錯覚でもいいから今だけは縋ってしまいたくなっていたのだった。

「自信を持っていい…波瑠ちゃんは理沙に近い考え方や共通点があると前に語っていたことをわたしは全て覚えているのよ」

 少しだけ背が低い体に抱き締められて、緊張と不安を取り除いてくれる優しい声で語りかける口調が丁寧で穏やかな京香さんだ。

「京香さん…はい、そうでしたね。いつも鳴海先輩を近くで見ていて、わたしもその存在に近づきたいと思っているので…大丈夫、演じてみせます」

「よし、その意気ね。…それじゃあ先輩、少しわたしのパワーを受け取ってくださいね」

 わたしの姿の京香さんは片手をわたしの両目に被せて目隠しをして、わたしの唇に唇を重ねてしばらくの間甘く溶け合うようなお互いの柔らかさを味わう口付けを重ねてそっと離れると、矢代のようなニコッとした顔で手を振って「よろしくお願いしまーす」と言って退室して行った。

 彼女の唇の感触が残ったそれに触れると、不思議と安心感に包まれている気がした。

 

 時計を確認すると、ちょうどタイミングばっちりで10分という貰った時間が終わりを告げていることに気づいて、改めて彼女の抜群の判断力とプロ意識を知るのだった。

 

 本番スタートの合図が聞こえて、矢代が理沙の一室へ入室するためにノックをしてくるその瞬間に備えて、資料を手に持ち椅子に座って待機した。

 

トントン。

「失礼しまーす。先輩、どうすか?」

「うーん、もう少しなんだけど一歩手前で出てこないのよねぇ…この資料の欠損部分に重要な内容が書いてあったんでしょうけど、空想でもなかなか難しいわね」

「先輩でも難しいんじゃ、自分はもっと何も役に立たないすよ…」

 

腕を組んで頭を悩ませる顔で唸って宙を見ながらウロウロしている矢代を見ているのも面白いなと感じ、気分が乗ってきたみたいだ。

 

「よーし、先輩と一緒に真実のカケラを見つけなくちゃね~って言ってたんだから、ホルスにも役に立ってもらわないと困るんだけど」

「あ、あの、もしかしてさっきの会話、全部聞こえてたんすか…?」

 

理沙の黒縁眼鏡をスッと外して含み笑いを浮かべて矢代を見て一気に言い放った。

 

「あんなに大声で話してたら丸聞こえに決まっているでしょ、あなたの貰い手がどうのっていう会話も全部聞こえてたわよ」

 


…続く。