あなたがわたしで、わたしがあなた ⒈

 


*現実の方々とは無関係のフィクションの世界です。

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あなたがわたしで、わたしがあなた ⒈


 たぶん誰にも気付かれないから大丈夫よ、なんて楽観的に応えていた京香さんはというと、涼しげな顔をして台本をチェックしているみたいだ。

 わたしは衣装に着替えて、イメージトレーニングと台本チェックを繰り返しながら、出番を待っているのですが、普段とは違ってベテラン女優の余裕がある演技が求められるとなると、荷が重くてどうにかなりそうだった。


「あの…京香さん…わたし、上手く演じられるでしょうか?」

 出番待ちの椅子に行儀よく座っている彼女の隣に座り、小声で尋ねてみた。

「ん~そうだなぁ…あんまり上手く演じようと思わなくてもいいと思いますよ。わたし達は収録を重ねる毎にお互いのことを理解して、掛け合いだって何度も練習して直してきたんですから、自信を持って挑みましょう!ねっ京香さん」

「ひっ!?そそ、そうね…波瑠ちゃん、精一杯変人になれるように頑張るぞー!」

「ふふっ、お互い頑張って乗り切りましょうね。上手く乗り切ったらご褒美をあげるわ…」

「ご褒美って何をくれるんですか…?」

「それは終わってからのお楽しみ。あっ、呼ばれているので行ってきま~す」


 そうなんです、楽屋から出てきた京香さんと鉢合わせしてぶつかった拍子になんとビックリ!魂が入れ替わってしまったのである。

 その時の様子はまた日を改めてお伝えすることにして、今は本番を迎える彼女を見ていくのが重要だ。

 わたしの姿をした京香さんは、椅子から立ち上がると元気よく収録スタジオへと入って行ったので、京香さんの姿をしたわたしもその姿を追って立ち会う事にした。


 シーンは強行犯の桑部さんと岡部くんが倉庫までやって来て矢代と会話をする…ただそれだけの1シーンなのに、見ているこちらの方が緊張してしまい、息を呑んで落ち着かせている状態だった。

 

「それでどうなんだよ、この前渡した資料の解析は終わったのか?」

「今先輩と一緒になって考えてるところだよ。っていうか何よ、その上から目線の言い方!わたしの代わりに強行犯に入った癖に、ホント態度だけは一丁前って感じだよね~」

「何だと!お前、相変わらず憎たらしい言い方しか出来ないよな。そんなんじゃ嫁の貰い手なんて見つからねえぞ」

「ふふんっ、別に岡部くんに心配してもらわなくたって平気だし、この人のお嫁さんになりたいなぁと思う人はいない事はないしね」

「な、なったんだって!?」

「お前らなぁ…って、矢代の貰い手がどうとかどうでもいいんだよ!その資料の解析を早くしてくれって魔女に言っとくんだぞ、いいな!」

「…誰だよ…そいつは…」

「ふぅー、もう行ったかな。よーし、先輩と一緒に真実のカケラを見つけなくちゃだから、頑張ろうっと」


はいカット!シーンのチェック入ります!


(すごい!京香さんはご自分の役の様に、完璧に矢代を演じている…さすが大女優という立場になるまでに、アドリブを何度もこなしてきているだけの事はあるな…それと比べてわたしはどうなるんだろう)


 わたしは不安で押しつぶされそうになっていた。

 

…続く。