魔女の鮮血~矢代の激昂~⑥

魔女の鮮血~矢代の激昂~⑥

 

 目の前の田丸先生は慌てふためいて自身の頬をパンッと叩いたり、治療に使ったのだろうと思われる薬品や残った包帯をジロジロ見つめたりと、少々挙動が怪しかったが、今この人しか現状では頼める人がいないため、頼みを簡潔に伝えることにした。

 

「自分は矢代朋と言います。職業は…(ちょっと誤魔化そう)今処置して頂いている理沙さんのボディガードなどをしています」

「患者さんのSPでしたか…なるほど、ボディガードが目を離した隙をついてという感じだったら辻褄が合いますね…」

「(まさか警視庁ってバレたの?!意外にも感がいい人なのかもしれない) 自分の紹介は今はどうでもいいんすよ、あなたにしたいお願いというのは簡潔に言うと、どこでも構わないんで一発殴って欲しいんです」

「え…えーっ!?わたしはまだ研修医ですが医師ですよ、医療に従事する医師が人を殴れるわけないじゃないですか!しかもSPをされている方なんてもっと無理ですから!…というか、ドキドキさせて殴って欲しいとは…」

 

 今の状況が夢なのか現実なのかを確かめたいだけなのに、殴ってもらうのはさすがに無理だとわかり、他には何かないものかと室内を見回していると、洗面器が目に留まり急いで治療を受けていた椅子から立ち上がってそれを手に取って、次に蛇口を瞬時に探し当てると直ぐにひねって水を注いで貯め始めた。

 

「矢代さん、何をやっているんですか?洗面器に水を貯めてるってまさか!!」

「すみません、後で床を拭いてもらえると助かります……んしょっ…ひっ!つめたいっ!!」

 

 洗面器に貯めた水を頭から被ったわたしは、頭部から半身までがずぶ濡れになったが、水を被ったことで少しずつ落ち着いて現実感と冷静さを取り戻していくのだった。

 

「もう、風邪ひいてしまうので早くこのタオルで頭部と服を拭ってください」

「あっ、ありがとうございます…」

 

 わたしは田丸先生からタオルを受け取って言われたとおりに頭部を拭っていると、処置室をノックする音と共に扉がバッと開いて、慌てた様子で看護師が田丸先生の元へと駆け寄って来た。

 

「大変です、救急の患者さんが出血性ショックを起こして危険な状態です。現状分で輸血も始めていますが、血液センターからの到着が遅れ気味です」

 

 

タオルで拭いきれていない水滴が顔を伝い流れて一雫ポツリと床に落ちた…

 

 

……理沙さんが危険な状態……どうして……わたしは………

 

 

 

…続く。