未解決商事 オフィスラブ①

 

 

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未解決商事 オフィスラブ①

 


彼女との出逢いは運命的だった…

これまでの人生は仕事がずっと生き甲斐で、この道一筋でやっていくのだろうと前向きな姿勢でやってきたのはいいものの、やはり年々歳が上がっていくにつれて、不安に思う事もじわじわと出てくるもので、そんな不安とストレスを解消してくれるものは生き甲斐のお仕事と趣味の絵画を美術館へと鑑賞しに行くということだけだった。

これまでが、充実していたかどうかはさておき、それだけで人生が終わる筈もなく、わたしの人生の中で遅咲きの春と巡り逢うことになるとは、思ってもいなかった転機が訪れるのである。

 

 

本年度の入社式も無事滞りなく終了した。

わたしは会社のとある部署の課長であり、今回は依頼を受けた司会進行役の務めを終えて、休憩所でコーヒーを飲みながら一息ついていた。

その時、休憩所の前の廊下を通り過ぎて行った人物が何度もその付近を通ってはキョロキョロと見回している姿が気になり、放っておけずに声を掛けてる事にした。

 

「何かお困りですか?」

「えっと…ついさっきまで入社式があったのですが、お手洗いに行ってたら道に迷ってしまいまして…」

「なるほど、新入社員の子ね。研修の連絡事項とかあるから早めに移動をした方がいいわね」

「あなたは、先程司会進行役をしていらした鈴木課長ですね」

「あら、きちんと記憶してくれたのね。感心したわ、ありがとう」

「あ、あのですね…こんなことを初対面の新入社員が言っては失礼かもしれないのですが…声色がとても聞き心地が良くて、もっと近くで聞いたらどれくらい心に響くのかなぁと思ってしまいまして…不躾にすみません!」

 

不思議な感覚が全身の動きを止めた。

彼女の発する若さと美しさの光の反射に当てられたのか、それとも今まで出会ったことのないような大きな瞳に惹きつけられているのか、定かではないが確実に目の前の彼女による影響力であることは確かだった。

 

「鈴木課長…?ごめんなさい、変なことを言ってしまい申し訳ありませんでした!」

「あ、違うのよ。わたしも初めて心地の良い感覚を体験したわ…なんて、今の話はまたいつかにして、研修の連絡事項で新人が集められている会議室へと案内するわね」

「ありがとうございます」

 

急ぎ足で会議室まで案内し、深々と一礼をした後、少し緊張を貼り付けた様な面持ちでその部屋の中へと入っていく彼女を見送るのだった。

 

そういえば彼女の名前を聞き忘れてしまったと気がついたのは自分の部署へと戻ってからだったが、同じ社内にいるのだからまた会えるはずだと考えて、いつもと変わりのない日常に戻っていった。

 

新人研修期間が約1カ月ほどあり、その期間を無事に終了した者達がそれぞれの部署へと割り当てられて来るのだけれど、この部署に配属予定だった例の彼女は研修期間の最終日に、身に起こってしまった事故により、部署異動までの期間がかれこれ二年以上先になってしまうのだった。

 

****

 

「波瑠ちゃん、そういえばあの日の怪我の後遺症は…?」

「んー、もうだいぶ月日が経ちましたね。身体的にも特には問題無いはずなんですが、あの事故の直前の事を覚えていないくらいですかね…確か、京香さんが事故現場に直ぐに駆けつけてくれて救急車を呼んでくれたんでしたよね?」

「ええ、あの日はわたしにとって悪夢のような半日だった…波瑠ちゃん、触れてもいい?」

「どうぞ。…ここにいますよ、京香さん…」