触れ合う心と声と②

 

 


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触れ合う心と声と②

 

 


 セットの中での撮影はその場所の空気感に溶け込むと同時に、緊張感と集中力が加わり、わたしは矢代朋として息衝き、演じるのだ。

 そして、鳴海理沙を演じる京香さんも、先ほどのような明るくほんわかとした雰囲気は一切消えて、真剣な面持ちで台詞を紡いでいくのだった。


 先輩の部屋でのシーンに移り、京香さんは黒縁の眼鏡を掛けて捜査資料用の用紙を手に持ち、本番がスタートする。

 休憩時間の打ち合わせと、ダメ出しやアドバイスのおかげもあり、特に目立ったNGも貰わずに、そのシーンは早めにOKが出た。

 小休憩に入り、スタッフさんはそれぞれに次のシーンの準備や撮影シーンのチェックに入り、わたしも水分補給をしようと部屋から出ようとした途端、京香さんに呼び止められた。


「あっ、ちょっと待って波瑠ちゃん、わたしが少しダメ出しをするって伝えて扉を閉めてもらえるかしら?」

「はい、分かりました。 ちょっとだけ待ってくださいね」


 現場の監督へ確認を取るために一声かけてOKをもらうと、指示どおりに扉を閉めて、京香さんの方へ向き直るのだった。

 一連の流れの間に京香さんは椅子から立ち上がり、気づかない間に静かにわたしの背後まで来ていて、ふわっとお腹に両腕が回り、包み込むように優しく抱きしめられていた。


「やっとつかまえた…こうやって抱きしめるのが一番安心できて落ち着くわね…」

「…そんなダメ出しだと、わたしはあなたにすべて身を委ねてしまいますよ…」

「そうして欲しい……わがままかもしれないけど、波瑠ちゃんのぬくもりを一身に感じていたいの」

「ふふっ、こんなところで自分をさらけ出してしまうのは…京香さんだけですよ…」

 「…嬉しいわ…わたしも同じよ…」


 休憩時間中はだれが見ているかどうか分からず、気を緩めてしまうことはできない。

 今この瞬間、ほぼ密室に近くて、背中から腰、ヒップ、太ももに掛けて密着してくる彼女の体温に、わたしの心拍数の上昇は抑えることはできそうになかった。


「…ずっとこうしていたいんだけど、あまり時間がないから、早めにダメ出しに移らせてもらっても大丈夫かしら…?」

「…はい、いつでも大丈夫です。 京香さんの思うとおりに教えてください……」

 

 京香さんはお腹に回していた腕を解き、わたしの体を正面に向き直らせた。それから、唇に親指を添わせてひと撫でしたら、すぐに顎を優しく持ち上げて、彼女の顔がわたしのそれに近づき、ふたりの距離はゼロになった。

 

 わたしは瞳を薄く開いて、京香さんの綺麗な瞼を見つめてしまう。その視線に気がついた京香さんが瞼を上げて一瞬見つめ合うと、片手でスッと腰を引き寄せられて再び瞼を閉じた。

 触れ合うだけの柔らかい口付けでは物足りなくなり、わたしは自分から舌を動かして京香さんの唇にツンッと合図を送り、そのまま招き入れて絡ませていく。

 舌をなぞったり唇を吸われたりを繰り返していたら、彼女だけを感じてしまいたいという欲が溢れてしまったわたしは、京香さんの背中に手を回して、もっとして欲しいと懇願するようにジャケットの生地をキュッと掴んだ。

 京香さんに抱きしめられて、深く絡み合う唇からは濃厚な息遣いと、痺れるような気持ち良さで我慢出来なくなった甘い吐息が溢れる。


「………んっ………ふわぁ………ん………ぁ……」

「………っ………ちゅっ………はぁぁ……んん…」

 

 二人の間にはもう何の隔たりも距離も無く、お互いの愛を注ぎ合う触れ合いに没頭していたのだった…

 あまりの気持ちの良さに、柔らかくて甘い唇を離せなくなってしまいそうなところを踏み止まり、わたしはゆっくりと離れて息を整えていると、京香さんに再び抱き寄せられた。


「…波瑠ちゃんが随分と積極的でわたしもとても気持ち良くて離れたくなかったわ…」

「…わたしも同じこと思ってました。…ですが、あんまり長い時間ダメ出しを受けてもいられませんよね」

「確かにそうね。それじゃあ、本日分の仕事予定がお互いに終わったら……」

京香さんはわたしの耳元で囁くような綺麗な声で、甘い誘いの言葉を掛けてくれた。

「わかりました。わたしも京香さんに直接アドバイスを頂きたいと思っているので……」


 もう一度見つめ合いながら軽い口付けで約束を交わし、二人はそっと離れて、役の方のダメ出し指導をきっちりと受けるのでした。