早く帰ると約束を交わして⑶

早く帰ると約束を交わして⑶

 

 わたしは、早速集中力を高めて捜査資料の文書解読を始めた。

 ざっと目を通した感じだと、例のフラッシュカードの時の様な難解さは見受けられないので、文字の癖などから心理状態を読み解く事に集中したらいい様子だ。

 

 書かれた文字を一つ一つ何度も繰り返し読んでいき、頭の中で記憶している知識をフル活用して思考していると、あっという間に時が過ぎていたみたいだった。

 

〔メールの受信音〕''あの子を傷つけたいのに 褒めてしまう~♪''

 

「あっ、あの子からね…何かしら」

 

[理沙さんのお家に着きました。何かしておくことってありますか?]

 

 わたしはしばし考え、今朝は少し急いでいて、流しに置いてきてしまったコーヒーカップとプレート皿を一枚思い出し、それだけ彼女にお願いするメッセージを送ることにした。

 

[流しに置いてあるカップとプレート皿だけ洗っておいてもらえると助かるわ]

 

[あ!!ありました。洗っておきまーす。早く帰ってきてね]

 

「わっ、またエクスクラメーションマークが入ってるわ…しょうがない子ね…」

 

 時間が勿体無いので、そのマークを咎めることもなく、再び集中して文書解読の世界へと没頭していった。

 作業を開始してから一時間半くらい過ぎた辺りで、ようやく文字の神様が降りて来そうになり、あと少しだというところで、またメールの受信音が耳に届いた。

 

「あともう少しなのよ~朋からね、なになに…」

 

[理沙さんまだ~? 文字の神様早く降りてきてくれないかな…一人だとさみしい」

 

[あともう少し、集中力が途切れるから、特に用が無いなら送ってこないで]

 

[えへへっ応援してます。誰よりも愛してますよ、わたしの理沙さん♡]

 

 年甲斐もなく顔から火が出そうなところを何とか耐えて、染まってしまった頬のまま、文書解読を終わらせるのだった。

 早々と帰る準備をして、解読が終わったことを内線で連絡するため一旦部屋から出て、依頼主の名と早く降りて来るように手短に伝え、内線の電話を直ぐにガチャンと下ろした。

 

 その時、不意に彼女のデスクが気になってしまい、そのデスクの前に立って何か忘れ物がないかと思いつつジッと目を向けると、椅子の座面に見覚えがあるハンカチを見つけて直ぐに手に取っていた。

 

「これは朋のハンカチね……スッ……あの子の香りがするわ…」

 

 誰もいないという解放感からか、愛する彼女の残り香りを求めてしまうなんて、普段だったら絶対にしないという行動を取ってしまうのだった。

 

 

…続く。