魔女の鮮血~矢代の激昂~⑤

魔女の鮮血~矢代の激昂~⑤

 

「痛々しい……理沙さんが悲しむ……そう、なんすかね……」

 

 独り言のように呟いた声が届いたかどうかはわからないが、田丸先生の言葉で先輩がわたしを心配だと色濃く浮かんだ顔と手の微弱な震えを思い出した。

 

 先輩とお付き合いを始めてからというもの、強行犯の捜査に同行して欲しいという話が来ると、決まって先輩がわたしと彼らの元へツカツカとやって来ては「動ける人間が他にもいるでしょう?こっちだって最近は解析依頼が増えているんだから一人減ると迷惑だし、連れて行くのは直属の上司である私の許可がないと絶対に駄目よ!!」と強い口調で断っている姿を見る機会が増えていた。

 

 最初は気にならなかったが、さすがに何度も追い返している様子が気になったので、お泊りの晩ベッドで横になった時を狙って彼女に尋ねてみる事にした。

 

「最近少し気になってるんだけどさ、わたしが強行犯に連れて行かれそうな時に理沙さんが止めるのって何か理由があるの?」

「理由も何も、あなた二度も凶弾に撃たれたのに、まだひょこひょこと撃たれに行くつもりなの?」

「そんな、あんな事は滅多に起こらないだろうし、二度目は先輩に見習って買った辞書が守ってくれたから何ともなかったじゃない…って理沙さん?」

「バカ…わたしは、あなたを絶対に失いたくないから、止めるに決まっているでしょう……っ…」

「理沙さん…泣いてるの?…ごめんね、わたしはいつも無鉄砲で熱くなったらどうにも自分自身を止められなくなっちゃうんだ」

「わかっているわ…朋、ギュッとしてわたしの涙を拭って…わたしが泣かないでいられるように、ずっと傍に……」

 

 ハッと気がつくと、手の治療を終えて、包帯を巻いている田丸先生の姿が見えた。

この処置室らしい場所にいつの間に来たのか、わたし自身が先生に従ったのかさえ覚えがなく、それは''心ここに在らず''と彼女に教えてもらった言葉が不意に出てきた。

 

「少しは落ち着きましたか?はい、処置出来ましたよ」

「えっと、あなたは田丸先生でしたよね?あなたが自分を引っ張ってここまで連れて来て、治療をされたんですか?」

「ええっ、もしかして今さっきまでの事を覚えていないんですか?その手を見たら悲しむ人がいるとお伝えしたら、急に真剣な顔に変わってお願いしますと言ってついて来てくれたんですよ」

 

 つい数分間の出来事の筈なのに、全く覚えていなかった。いや、もしかしたら…あの時刺されたのはわたし…?

 

「あの、突然おかしなお願いをしてもいいすか?」

「え、わたしにですか?」

「この部屋には、あなたしかいないじゃないですか、今すぐじゃないとダメなんすよ」

「えっ、待ってください!まだあなたと出会ってから数十分も経ってないのに、心の準備が出来てないですし、まだ名前も伺っていないのに…緊張しちゃう!」

 

 

…続く。