早く帰ると約束を交わして⑵

早く帰ると約束を交わして⑵

 

「あなたはいつも優しい手つきで包み込んでくれるのね、わたしは何もしてあげられていないのにね…」

「ううん、ここに居てくれるだけでいいんだよ、理沙さんの温かいぬくもりを感じていられるだけで幸せなんだもん」

「それはどうもありがとう。ねぇ朋…そろそろ充電は済んだかしら?」

「まーだ全然足りない…理沙さんからキスしてくれたら、充電できるんだけどなぁ」

「しないわよ」


 抱き寄せたまま顔だけこちらに動かして、早く濃厚な口付けをして欲しいと、恋い焦がれた瞳で覗き込んでくるから、目が反らせなくて自分が一番面倒な人間なんだと気付かされるのだ。


「ねぇ…して欲しいな」

「ここではしません」

「理沙さんが欲しい…お願い」

「ベッドの上じゃないんだから、そんな甘い声出さないで」

「むー…じゃあ同期の女の子としてくるから、理沙さんはお預けだね」

「ちょっと、何で他の女にあなたの唇を奪われないといけないのよ!そんなの絶対に許さないわ!!」

 

 彼女と誰か知らない女の唇が近づいていくイメージが過ぎり、自分自身を抑えられないくらい腹が立ち、普段は出さないような荒んだ大声を上げてしまった。

 矢代もこんな声を荒げるわたしを初めて見たようで、呆気にとられて瞳孔が開いて数秒ほどぽかんとした表情を浮かべていたが、すぐにニコッと嬉しさが溢れた顔つきで唇をじっと見つめてきた。


「……わかった…朋の唇はわたしだけのものよ………んっ…」


 片手で顎をスッと持ち上げて唇を塞ぐと、わたしの愛撫が欲しいと求める舌を絡め合わせながら彼女の口内に進めていき、吸い上げたり舐め合ったりを繰り返し、どちらのものかわからない唾液が口の端から溢れ落ちても、この甘美な唇から離れたくないと思ってしまうのでした。


「…ん~……ちゅっ……んはぁ…はぁはぁ………理沙さん…激しかったし気持ちいいね」

「…はぁはぁ……朋、これでもう先に帰れるでしょう?」

「わかりました、それじゃあ早めに終わらせて帰って来てよ、約束だからね」

「他の女と…いえ、男とも絶対にキスしないって約束もしなさい、いいわね?」

「はい、了解す!理沙さんもダメだよ」

「はいはい、他の人間なんて全く興味ないし、了解です」


 矢代は満面の笑みでわたしの両頬を撫でたりふわふわと手のひらで触ってから、それではお先に失礼しますと言って一礼をして、鍵を開けて準備をテキパキと行い、バタバタと駆け足で帰宅して行くのが扉越しでもわかった。

 腕時計を確認すると、定時を数分前に過ぎていた為、他の二人はもう帰っているようで少しホッとしつつも、残業が待っている事を思い出してしまい、気持ちが安堵から憂鬱へと変わってしまうのだった。

 

 

…続く。