早く帰ると約束を交わして⑴

早く帰ると約束を交わして⑴

 


 本日分の資料整理はとっくの昔に終わらせて、休憩しながら残り時間は本を読むと決め、いつものタンブラーにコーヒーを注いでいると、思いもしない人物に捕まってしまい、この捜査資料の解析だけは急ぎで頼むと頭を下げて言われてしまっては、あっさりと断わることなど出来なくなってしまい困った。

 どうして困るのかと言えば、単純に残業する時間が迫りつつあるということで、騒がしい誰かさんに絡まれるのが面倒だと思ったからである。

 わたしが面倒だと思っているとは知らない彼女が何かあったんすか?と楽しそうな顔で擦り寄って来てしまった。

 

「鳴海先輩、何か新しい捜査資料すか?自分もお手伝いしますよ!遠慮なく言ってくださいね」

「ホルス…それじゃあ遠慮なく言うけど、今日はもういいから先に帰りなさい、それだけよ」

 

 わたしの言葉を聞いた矢代は大きな目をまん丸に開いてから、不満そうな顔でどうしてですか?と言いたげに睨んできてお決まりの言葉で尋ねてきた。

 

「自分がいたら邪魔になるってことすか?シワの少ない頭の自分じゃ何も役には立たないからですか?」

「ちょっと、そこまで卑屈にならなくてもいいでしょう、あなたらしくもないわね」

「でも、今日は残業しないで早く帰るんだって…わわっどうしたんすか…?」

 

 捜査資料を無言でささっと受け取った私は、矢代の腕を掴んで引っ張って自分の一室へと連れて行った。

 すぐに鍵をかけて、後ろを振り返ると矢代が唇をキュッと突き出してブー垂れた顔でこちらを見ていたので、髪をサッとかきあげながら溜息混じりに本心を伝えてあげることにした。

 

「ふぅ…せっかく今日は早く帰って一緒に過ごそうとさっきまでは思っていたのよ…朋」

「あっ!朋ってことは…理沙さん、早く帰るんだって二人で決めていたことを覚えてくれていたんですね、ふふっ嬉しいな」

「バカね、記憶力が取り柄のわたしがそれくらいのことを簡単に忘れると思う?」

「それくらいのことじゃないよ、わたしにとっては十分大事なことだもん、理沙さんと二人きりの大切な時間なんだから」


 矢代はそっと近づいて来て、壊れ物を扱うような優しい手つきで、わたしを腕の中に収めて抱き寄せられて心地良いと感じるのだった。

 

 

…続く。