魔女の鮮血~矢代の激昂~③

魔女の鮮血~矢代の激昂~③

 


 わたしは瞬時に体を起こして、片膝立ちで脚に力を溜めて地面を蹴り上げてホシに飛び込んで行き、一旦懐手前に潜り立つ。予測どおりにホシが再び凶器を斜めに振り下ろして来たので、素早くかわして、もう一度軸足に力を入れて踏み込んで飛び上がると、右脚で力一杯にホシの顔面を蹴り飛ばして勢いのまま反転し、背後に倒れかけているホシの右腕を咄嗟に掴んで一本背負いで投げ飛ばした。

 地面に叩きつけられたショックなのか、身動きが取れないホシの足元まで足を進めて、冷徹な瞳で見下ろした。

 

「お前!!わたしの大事な理沙を深く傷付けて、ただで済むと思うな!!!」と、重低音が響くような低めの声を荒げて怒鳴りつけた。

尚も感情の昂ぶりが抑えられず、すでに凶器を遠くまで落としてぐったりしているホシに近づき、体を跨いで腰を屈めて胸ぐらを掴み、腕を振り上げて一発殴ろうとしたその時、震えるように微かな声が耳元に届いた。

 

「だめ……もうそれ以上はいけない……とも………」

 

 わたしは胸ぐら掴んでいた片手を離し、ホシが気絶して動かないことを素早く確認すると、彼女の元へと駆けて行った。

 腹部付近を動かさないように先に膝を立てるように持ち上げて、頭と背をそっと起こして呼びかけた。

「理沙!救急隊が到着した音が聞こえるね、もう来てくれるから意識をしっかり持って!…ぁぁ…早く止血しないと…」

彼女の腹部に目を向けて見ると、患部から鮮血がじわじわと流れてくる様子に、先程までの昂ぶりはもう見る影も形なく、声を失って青ざめてしまった。

「……と…も……はぁ……ぅ………」

「理沙…もう喋っちゃだめ!…傷口にハンカチを当てて少し圧迫するから我慢してね…」

 

 直接圧迫止血法を用いて彼女の止血を試みるが、思っている以上に患部がやられている様子で応急処置では間に合いそうになかった。

 止血を施してからすぐに救急隊員が駆けつけてくれたので、取り乱しながらもなんとか状況だけ伝えると、彼女をストレッチャーに乗せて運んでいく姿を見送り、警察隊員へホシの身柄の確保をお願いしたわたしは、彼女を運び込む救急車へと急いで走って到着し、事情を説明して乗せてもらった。

 

 救急車がすぐに動き出し、中では数人が忙しなく声を掛け合って彼女の処置に当たってくれているのが仕切り越しでもわかった。

 何をすることも出来ないわたしは外の景色を呆然と眺めて、救急車の緊急サイレンの音で避けていく車の影を何台も見送っていた。

 

 茫然自失で外の景色を見つめながら、事件現場に向かう前の先輩の言葉がぼやけている脳裏によぎり、思い出していた。

 

(あなたの無鉄砲に付き合わされるこっちの身を少しでも考えたことがある?)

 

「………恋人の理沙さんの身を案じてあげられなかった…なんて……くっ………」

 

  自分の無鉄砲に巻き込んでしまい、わたしは一番大事な人の言葉をきちんと聞いて考えていたらこんな事にはならなかったんだと、自分を責めずにはいられなかった。

 

  それから、数分あまりで受け入れ可能な病院へと到着後、彼女は救急隊員によってストレッチャーに乗せたまま中へと運ばれて行った。

 わたしも救命救急センターの救急入口から中へ入ると、救命救急と上部に書かれた、自動の開閉扉の前で一人の救急隊員に止められてしまった。

 

「……理沙さん……わたしのせいで……ごめんなさい………」

 

 

ごめんなさい…と何度も呟くわたしは、その場に固まるように立ち尽くしているだけの無力な人間でしかないのだった…

 

 

 

…続く。