魔女の鮮血~矢代の激昂~②

魔女の鮮血~矢代の激昂~②

 


「そんな、ここでもう人生お終いみたいなこと言わないで…わたしが理沙さんを守るから、心配ないよ」

「ごめんなさい…少し弱気になっているみたいね。朋、私と一緒に居てくれる?」

「もちろん、ずっと一緒にいるね」

 彼女を安心させるように両手を握って、とびっきりの優しい笑顔を見せた。

 お付き合いを始めたばかりの頃、あなたの笑顔を見ると自分でも不思議なくらい安心するのよ、と先輩は不器用な物言いながらも伝えてくれた時、胸の奥が熱くなるくらい嬉しくて、今でもずっとその時の記憶は焼き付いて残っているのだ。

 


 再び気を取り直して、先輩と前後に並んで周囲を警戒しながら公園内を歩いて行った。

 先程の女性の他にも、腕や脚を切られた被害者を数名見つけては、その都度先輩と協力して応急処置を行いながらも心は焦りばかりが増していく。

 薄暗い木々の影に潜んでいるのか、それとも、もう私達の姿を捉えていて、いつ襲いかかろうかと狙いを定めているのかもしれない。

 


 焦燥感が態度に出てしまっているのか、先輩はわたしの背中をそっとさすって宥める言葉を掛ける。

「矢代、焦らないで」

「自分は焦ってなんていませんよ」

「早く通り魔を見つけて捕まえたい気持ちは同じよ、これ以上酷い怪我人を出させるわけにはいかないわ」

「そんなこと重々わかっていますよ、先輩こそもっと早く動いてホシを探してください!」

「…熱くならないで、あなたの悪い癖よ」

 二人の間には重い緊迫感が漂い、未だに冷静さを保っている先輩に、自分の余裕の無い姿を見せてしまっていることにばつが悪く、余計に苛立ちを募らせていた。

 


その時、突然先輩の表情が険しくなり、眼光鋭くわたしの顔を睨みつけている様子に慌てて尋ねた。

 


「先輩どうしたんです……っ!!?」

 


 先輩は咄嗟にわたしの腕を掴み、グイッと引き寄せて斜め後ろに薙ぎ払うと、背中からドサッと倒れた瞬間、刃物持った通り魔が腕を高く振り上げているのが目に止まった。

 勢いをつけ襲い掛かるように振り下ろして来て、先輩は身を守るように何とか避けようと試みたが、脇腹にガンッとかするような一撃を受けてしまい、その瞬間甲高い苦痛の悲鳴が上がった。

 


「んぎぃあぁああっ!!!!…ぁぁ……うっ………」

 


 先輩は脇腹を押さえてその場に崩れるように倒れ、耐えがたい痛みに呻き声を発しているのが微かに聞こえてくる。

 


「なんで……な……なるみ…せん…ぱい……」

 


 目の前で倒れた先輩の脇腹の傷口から鮮血がふき出し、血溜まりができる様子がスローモーションのような感覚で見え、目の前の光景が鮮明に脳裏を過ぎっていき、我慢が出来ずに唸るように大声を上げてしまった。

 


「い……あ……ぁぁ……う……うわああああぁぁ!!!!」

 


 次の瞬間、わたしは煮えたぎるようにカッと頭に血が上り、激情に駆られ冷静さをなくしていくことを、どうにも止めることなどできなくなったのだった。

 

 

 

…続く。