Overflow (前編)

Overflow (前編)

 


私は混乱している。

すでに、先程まで何をしていたかさえ思い出せない。

書類整理の苦手な彼女に付き合っていたのは確か。

 


それから、そう。

19時も過ぎて、彼女にしては早く片付けたなと思ったから、ポンと、頭を撫でた、んだっけ。

いつもの変わらない、後輩との時間。

だったはず。なのに。

 


「先輩、好き」

絞り出す声は、普段のはつらつとしたものではなく。

 


「ホルス…」

私の声は、彼女にどう聞こえているか。

壁に追いやられ逃げ場を無くされ。

非常事態だと頭ではわかっているのに。

次の言葉、次の動きを待つことしかできない。

 


「好きです」

大きな目は伏せられ空(くう)を見。

吐き出されるその想い。

 


どうしたらいい。どうしたらいい。

いつものように、はぐらかせば。

 


臆病な心が、勝手に口をつく。

 


「あのねぇ、またそんなこと言っ」

言い終わる前に、さらに距離を詰められた。

目の前に、ホルスの、髪。

近すぎて顔が見られない。

身体が引っ張られる感覚があるのは、ジャケットを彼女が握りしめているから。

 


「好きです。好きです。好き、好き、好き、好き…」

繰り返される。

 


「ホルス、あなた…んぅ」

両の手が視界に入った瞬間。

私の頬は包まれ、唇を奪われていた。

 


「自分は…自分は…!」

震える声と、口付けが、交互に私を攫う。

 


「ごめんなさ…ん…でも、もう…はぁ、

 頭の中が先輩で、めちゃくちゃ…で。ごめんなさい…っ…ごめんなさい…」

 


「ホルスっ…んぅ、…ふ、あ…」

目眩がする。

キスに?いや、たぶん、ぶつけられる想いの強さに。

 


「せんぱい」

呼ばれて、なんとか向ける視線が、絡んだのとどちらが早かったか。

抱きしめられた。息も、できぬほど。

 


「ごめんなさい。止められない。

 明日には忘れるから。先輩も、忘れて、ください。

 でも、お願い、私のこと、嫌いにならないで…」

 


くぐもった声。

涙と濡れた舌を、首筋に感じた。

 

 

 

 


…続く。