大きな桃と鳴海先輩と矢代さん (やしなる)

大きな桃と鳴海先輩と矢代さん (やしなる)

 


 少し昔、あるところに矢代さんと鳴海先輩が暮らしていました。

 

 矢代さんは山へ芝刈りに、鳴海先輩は川へ洗濯に、それぞれ出かけて行きました。

 

 矢代さんは体力自慢なので、芝刈りを早々と済ませると村の見回りに出かけていきます。

鳴海先輩はサングラスをかけて、つばの広い帽子を被り、しぶしぶと川で二人分の洗濯を始めました。

 鳴海先輩がしばらく洗濯をしていると、なんと上流から大きな桃がどんぶらこ~どんぶらこ~と流れてくるのが見えて、「ワッ!何なのあの大きな桃は…」と鳴海先輩は恐々と見ていました。

 大きな桃が流れていくのを眺めながら、見なかったことにしようと決めた鳴海先輩は、お洗濯の手を再開しました。

 洗濯を再開した鳴海先輩の元へ村の見回りを終えた矢代さんがやってきて、目敏く流れていく大きな桃を見つけてしまい、膝の少し上までの水位くらいで入れると判断した矢代さんは、靴と靴下を脱いでザブザブと川へと入って行くのが見えました。

 鳴海先輩の驚きを他所に、矢代さんは大きな桃をよいしょと持ち上げて、鳴海先輩をすぐに見つけると、にこやかに手を振っていました。

 川から出て大きな桃を地面に置き、鳴海先輩が近寄ってきて、「気持ち悪いから無視していたのに何で取ってきたの?!」と矢代さんを怒りました。

 矢代さんは「誰かの落し物だったらちゃんと拾って、自警団(小さな警察の組織みたいなもの)へ届けてあげたいすよ!」と馬鹿正直に答えたので、鳴海先輩は「勝手にすれば…」と半ば呆れ顔で言いました。

 


 村にある自警団には矢代さんと鳴海先輩も所属していて、今日は草加さんが自警団の管理担当の日番として赴任していました。

 行きたくないと嫌々な鳴海先輩に付き添ってもらった矢代さんは、大きな桃をよいしょと運んで自警団へと持ってきました。

「また迷惑な落し物が来たな…」とぼそりと呟く草加さんと、「本当にいい迷惑よ」と御立腹な鳴海先輩ですが、矢代さんはまた良い行いをしたとスッキリ爽やかな笑顔で二人を見ていました。

 

 鳴海先輩は、あとは自警団に大きな桃を預けることに勝手に決めて、お洗濯の続きがあるからと言って出て行ってしまい、矢代さんも草加さんへと引き継いで、颯爽と鳴海先輩の後を追いかけて行きました。

 二人でお洗濯を済ませてお家へ帰ると、矢代さんが鳴海先輩のお疲れの体を気遣い、「今晩はわたしが料理をします」と言い出したため、慌てて「自分がやるからホルスは読み書きでも練習しときなさい!」と言って、鳴海先輩は晩御飯の支度を始めました。

 矢代さんが作るおかずは味付けが濃いため、鳴海先輩は極力自分が率先して作ることに決めていました。決して、矢代さんの喜んだ顔が見たいだなんて思ってるわけではないと、周りと食事時の会話が出ると話していますが、本心では美味しそうに食べてくれる矢代さんが大好きで可愛いと思っているのですが…正直になれない鳴海先輩です。

 


 なんやかんやで仲良く暮らす二人はお互いに想いは伝えていませんが幸せを感じていました。

 


翌日…

 


 今日は鳴海先輩が自警団の管理担当の日番の為行ってみると、大きな桃は既に無くなっていたのでした。

誰かが持って帰ってくれたのだと思い、朝の見回りから帰ってきた草加さんに尋ねてみたところ、財津さんが恐妻家の奥さんに頼まれて隣の村まで買いに行く途中で川へと落としてしまった物だったそうです…

 何であんな桃が売っているの?と疑問に思う鳴海先輩でしたが、もう忘れようと思い、大好きな読書をしながら半日を自警団で過ごしたのでした。

 


 翌日、財津さんから話を聞いた矢代さんが隣の村まで大きな桃を買いに行く…という話があったそうな…

 

 

 

めでたし、めでたし。