ケーキよりも甘いもの (なるやし) 前編

ケーキよりも甘いもの 

 


 鳴海先輩から仕事帰りに甘いケーキを購入したから、あとで家に来なさいというメールが届いた。

 実は先輩とわたしはお付き合いをしていて、週末に予定がない時は必ずお泊まりをする親密な間柄だ。

 大好きな先輩に逢えるのが待ち遠しくて、いつもよりさらにフットワークが軽くなってしまうのはお約束のこと。

 


「先輩来ましたよ~!」

「どうぞ」

マンション入り口のロックを解除してもらったら、エレベーターなど使わずに、階段を駆け上がって行った。

 


「鳴海先輩お待たせしました…っ!?…わわっ」

「…朋…あなたに逢いたくて待ち遠しかったのよ」

「でへへっ自分も先輩と同じこと考えてました!」

 


 玄関先でわたしを抱きしめている理沙さんの腕がグイッと背中を押し上げて、唇を塞ぎ濃厚な口付けを交わしてゆっくりと離れた。

 


「私と二人きりの時は、名前で呼ぶこと・一人称をわたしとすること。きちんと守るって約束でしょう?」

「すみません、ついつい仕事の感覚のまま来てしまいました」

「第6係の倉庫内だろうが外だろうと関係なく、あなたはわたしの嫁よ!独占させてちょうだい」

「理沙さん、もちろんす!」

 


 理沙さんに手を引かれてバスルームに入った。外気の匂いを全て取り除くように、二人で体を綺麗に洗い流していく。熱めのシャワーを浴びながら、触れ合うだけの口付けを交わしてバスルームから出た。

 素肌にブラウスを身につけて、下半身は理沙さんの家に買い置きしているショーツとショートパンツを履き、理沙さんは黒いブラウスに下はルームウェアのパンツを着用していて、それが仕事場では絶対見られない、キュートな雰囲気を醸し出しているのが可愛らしくて…

「わたしは大好きです!」

「ええ、知ってるわ。私がこのルームウェアを着用している時のあなたの緩んだ顔は、大好きな物を見た時の反応で、とっても分かりやすいものだった、これでどう?」

「理沙さんったら、わたしの心理分析なんてしなくてもいいですから、ケーキ!ケーキを早く食べましょう」

 


 今度はわたしが理沙さんの背中を押してリビングルームへ入って行った。

 


 わたしはコーヒーメーカーで淹れたてのコーヒーを二人分用意し、理沙さんは隣でケーキを切り分けてお皿に乗せていた。

 二人でソファーに座って寛ぎながら食べるケーキは本当に美味しい、理沙さんに顔を向けるとケーキには殆ど手を付けず、コーヒーを味わいながらわたしの動作を見逃さないように見つめてくるので、動揺を隠せずに慌ててケーキを一口サイズにカットし、フォークで刺して理沙さんの口元へと運んだ。

 


「わたしを見つめてばかりいないで、理沙さんも食べてください」

「ふーん、そう。じゃあ遠慮なく頂くとするわね」

「えっ?あの……んっ………」

 わたしが運んだケーキを唇に挟んだ理沙さんでしたが、そのままわたしに口移して、口内に舌を滑り込ませたまま、ケーキが無くまで舌を絡ませて食べさせてもらったのだった。

「ねぇ、あなたは欲しくならないのかしら?…それとも、何もせずに本を読むだけでも私は一向に構わないけど…」

理沙さんが何を欲しているかと、今までの流れから考えると答えは一つだけだ。

「…ケーキより、わたしを食べて…欲しいす……」

 良くできましたという顔で満足気に目を細めて微笑む姿に、魔女を彷彿とさせるようなイメージが浮かんではすぐに消えていった。

 


 リビングルームをそのままにして、ベッドルームへと急かされるように繋いだ手を引かれて、そのままベッドへとなだれ込むように、わたしに被さった理沙さんは素早い動作で首筋にキスを落としては、唇を添わせながら吸い付いてきた。

 思わず高い声が漏れたのを理沙さんは聞き逃がさずに、その声をもっと出させたいというように、首筋への愛撫が続いた。

「んんっ…ぁ……はぁ…ん……りさ…さ…ん………」

 理沙さんは首筋から顔を離し、わたしが着ているブラウスのボタンを胸元まで外すと、鎖骨の辺りを舌で舐め上げては、背中に回されていた片腕を脇腹まで進めて撫でる手は止まらない。

 


 しかし、気持ちが高ぶっていたはずの理沙さんは、最中に突然愛撫の手を止めて思考を巡らせる。

 仕事している時は分かりやすいくらい表情に現れるのに、今は何を考えているのか全く読み取ることができない。

 以前、何か理由があるのか聞いてみたところ、あなたをどうやって可愛がるのか考えているのよ、という返事ではぐらかされたけど、それだけでは納得出来ず、見えない何かに噛み付くような勢いで、わたしは愛する彼女の体を力いっぱい引き寄せて抱きしめていた。

 


「ちょっと、急に危ないじゃない!」

「…ねえ、理沙さんは気持ち良くないんすか…?」

「それはどういう意味なの?大体、この状況でそれを聞く?」

「…やだ……わたしは二人で気持ち良くなって、理沙さんの息遣いひとつ残らず欲しいんすよ…だから、心が伝わってこないエッチはイヤなんです!」

 


 その言葉を聞いた途端、理沙さんの目の色が変わった。

 


優艶さの中に迷いの無くなった鋭い眼光を放っているのが目に映って、快感と怯えが入り混じり、身震いしたのだった。

 

 

 

…続く。