雨に濡れて、その心に注いで (やしなる) 後編

雨に濡れて、その心に注いで

 


下着を脱ぎ終えて先輩の後ろ姿を追ってバスルームに入った。

鳴海先輩もわたしも一糸纏わぬ生まれたままの姿だ。

 


「先輩も自分もスッポンポンすね!」

「はあ?あなたってやっぱり男なんじゃないの?」

「またぁ、そんなこと言って。見てください、ちゃんと先輩と同じくおっぱいがここに付いてるんすよ」

 


 ちらっと振り返りわたしの瞳に視線を向けたかと思うと、また直ぐに逸らしてしまう。

その一歩引かれた素振りに少しモヤッとして、先輩の背中のラインを上から下まで目を走らせて盗み見てしまった。

 年齢など全く感じさせないその肉体は、まるで『こっちよ…』とわたしを誘っているかのように妖艶さの色香を放っているのだった。

 

 

 

 バスルームは想像していた以上に広くて、清潔感と洗礼された極上の空間に言葉を失ってしまう。トパーズブルーに少し深みがかかった壁の鏡面と室内はホワイトで統一し、カビなんて一切見当たらないのが本当にスゴイの一言に尽きる。

もう一点感激したのはこのスタイリッシュなデザインの浴槽だ。

 


「鳴海先輩!このお風呂ってもしかして循環式浴槽すか!!!」

「そうよ。これは本当に良いわよ~仕事から帰って来たらすぐお風呂、朝起きてシャワー浴びたらすぐお風呂、休日なんていつでも入り放題、バラ色空間~…ふぅ、早くシャワー浴びましょう」

 


 先輩がプッシュ水栓を押したら、温かくて心地良いお湯が降り注いで来た。

さあ、こちらへ来なさいと呼ばれたわたしは、先輩のすぐ前のスペースに身を寄せていた。 

水滴が入らぬように閉じ気味だった瞳をそっと開くと、気持ち良さそうにシャワーを浴びる美しい女性を瞳が捉えた。

 


 その姿を見た途端、全身に甘い痺れが走り、頭のどこかでスイッチが切り替わったような錯覚を起こしたのだった。

 


 わたしは右腕を伸ばして理沙さんの片腕を掴み、そのまま勢いをつけて腕の中に抱き寄せていた。

「えっ?…きゃっ!…ホルス……いきなりどうして…」

「…しっ……何も言わないで…そのままでいて……」

 理沙さんの頭部をそっと左手で支えると、わたしの心臓の位置まで耳がちょうど当たるように頭を動かしていった。

「……理沙さん、聞こえていますか……」

「なに…?あなた…人が変わったみたいよ……」

「わたしの心音を聞いてください…理沙さんのことを想うと……あなたを目の前にするとわたしの心臓はこんなにもうるさくなるんすよ…」

「ホルスの……矢代の心臓の鼓動の音……」

ドクッドクッと早鐘を打つ鼓動が自分にも聞こえてくる。

「理沙さん、今から話すことは一度しか言わないので、一言も聞き逃さずに聞いてください…!」

理沙さんは観念したのか、最初から逃げるつもりが無かったのか、わかりかねるが微動だにしない。

 


「わたしは鳴海理沙さんを…一人の女性として愛してしまいました……いつからだったのか実を言うと曖昧なんすけど、理沙さんを想うといつも胸がざわざわしてるんす。他の誰かに奪われるなんて考えるだけでむしゃくしゃしてしまうんです」

 


一言一句の言葉を慎重に選びながら、渾身の想いを紡いで伝えると、理沙さんは今にも泣き出してしまうんじゃないかというような俯き顔で、腹の底から絞り出すような声を発した。

 


「もう、訳が分からないわよ…!!私の頭の中が矢代でいっぱいなのよっ…あなたが普段と違う顔をするから、声を発して来るから、どうしていとも簡単に私の中に入って来るの…?胸が苦しくて今にも破裂してしまいそうよ…」

 


 抱き寄せている体から片腕を引き上げた理沙さんは、苦しい胸の内を露わにするような力で胸を叩いてくる。

 理沙さんに胸の辺りを叩かれるのは痛い、でもこの痛みすらも愛しいと思ってしまうわたしをどうか今は許してください。

 


「理沙さん、今すぐではなくても構いませんから…わたしをあなたのお嫁さんにしてください!!!」

「…っ!?……あなたって本当に熱い子よね……参った…正直、今言われたばかりで頭が混乱しているの。もう少し考える時間を頂きたいわ…」

「考えてくれるんすね!!嫌ではないってことだし、わたしが好きでいても構わないってことすか?」

「好きにすれば。それにしてもその暑苦しくて前向き過ぎる性格、悔しいけど羨ましく思うわ」

 


 理沙さんは、わたしの左上腕部にくっきりとした痕が残る銃創を一撫でしてからぽつりと一言…生きていてくれてありがとう…透き通るような美声が聞こえた。

 


その声が零れ落ちて消えてしまわぬように唇を塞いで…瞳をそっと閉じた。

 

 

 

 


…終わり。