雨に濡れて、その心に注いで (やしなる) 前編

雨に濡れて、その心に注いで

 


 二人で捜査に出かけて、そろそろ解散しようかと思った矢先、通り雨に降られてしまった。今の場所からだと鳴海先輩の家の方が近いということで、急ぎ足で向かう運びとなり、逃げ込むようにその扉の中へ入って行った。

 


「ああっもう最悪よ!全身ずぶ濡れじゃないの」

「すみません!自分が捜査に誘ったばかりに、こんなことになるとは…へぷし!」

「天気予報では雨が降るなんて言ってなかったもの、仕方ないわよ。それより、この格好のままでいる方が問題よ、風邪を引いてしまうわ」

 


 玄関先で頭部の雨粒をハンカチで拭ってはいるが、こんなのでは到底間に合わない。

わたしは先輩に目線を向けると、着衣が雨に濡れて肌に吸い付き、下着もほんのり透けて見えた。

 


(先輩なんて色っぽいの!いけない、見てはいけない…嗚呼、いけないと思ってるのに見ちゃう!)

 


 わたしは急いで目を逸らそうとしたが、間に合わなかった。

 


「ホルス、ちょっとあなた!顔近づけてどこ見てるのよ?!」

「鳴海先輩ちょ~色っぽいすねぇ、自分見惚れてしまいますよ~でへへっ」

「でへへっじゃないわよ!…あんまり見ないでちょうだい…」

 


 先輩は腕を交差させ手を重ねて胸元を隠し、恥ずかしげに視線を逸らしている。

鳴海先輩はいつもかわいい、かわいさ余って美しさ百倍だと思っているけど、そんなことをうっかり口から滑らせたら今すぐここから追い出されて、冷たい雨の水行で帰らなければいけなくなるのだ。

 


「ほらっ、だらしのない顔してないで早いところシャワー浴びるわよ」

「えっ自分もご一緒していいんすか??」

「ほったらかして風邪でも引かれたら、仕事に支障が出てくるでしょう。残業なんて御免よ」

 


(先輩、ホントは自分のこと心配してくれてるんすね。優しい人だなぁ)

 


 ホルス早くしなさい!と言いながら、玄関先からバスルームへとスタスタ音を立てて足早に歩いていく先輩の背中を目視して、わたしは靴を脱ぎ揃え慌ててあとを追いかけて行った。

 

 

 

 脱衣所では既に先輩は黒いジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外し始めていた。

わたしも脱衣所にお邪魔してジャケットとシャツを脱ぎ始めるが、体にぐっしょりと吸い付いているために悪戦苦闘していた。

 


「やっぱりそうなると思ったわ。ホルス、脱がせてあげるから体に触れるわね」

 


 先輩はわたしの前に立ち、片一方の腕から袖を引き抜き、もう一方もずずっと音を立てながら脱がせてくれた。

 


「先輩、なんだか手慣れてませんか?もしかして、彼氏にやってあげていたんすか!?」

「バカねぇ、変な誤解が無いように言っておくけど、妹がいるから昔はよく手伝ってあげていたのよ」

「妹さんがいるんすか!?それは初耳ですよ!先輩がお姉さんかぁ…」

「何よ、何か問題でもあるわけ?」

 


 ずいっと顔を寄せてきて、目を少し細めて睨んでくる先輩。

わたしはどんなに皮肉を言われようが、きつい物言いをされても平気だ。

だって、こうやって先輩が家族の話を教えてくれるまでに、わたしと親しくなってきていると実感できるから、正直にとても嬉しいのだ。

 


「いいえ、また一つ鳴海先輩のことを知ることができて、自分は嬉しく思っていますから!」

 


 ニコッと笑い、思ったことを真っ直ぐに伝えると、先輩は瞳を大きく見開きすぐにふわっと頬を染めたかと思ったら、焦ったように自分のシャツを脱いで下着にも手をかけて、わたしにも早く脱ぐように急かしてくるのだった。

 

 

 

…続く。