矢代のお弁当奮闘記 (やしなる) 中編

矢代のお弁当奮闘記 (やしなる) 中編

 


 矢代は早々に食べ終えて、持ち前の行動力を発揮したのか私に詰め寄って聞き込み調査を開始してきた。メモ帳とペンを持ち興奮気味に近づいてきて覗き込み、彼女の息が頬の辺りに触れて、そこが熱を帯びてくるのが分かった。こんな何とも無いはずの触れ合いで、彼女を強く意識してしまうのは少々面白くない。私は咄嗟に仕返しを考えつつ、いつものように目の前に手を突き出して静止させた。

 


「ストップ!ホルスの顔…近すぎるでしょ」

「あっ///すいません、もしかして息臭いました?」

「ええ、タマゴサンドを間接的に味わっている不快な気分よ」

「失礼しました!…ごほん、では改めて鳴海先輩の食べたいおかずを教えていただけませんか?」

「食べたいおかずねぇ…それじゃあ、あなたの血色が良い薄桃色の唇かしら…」

 思っても見なかっただろう言葉に矢代は大きな目を見開き、頬をほんのり染めて戸惑ったように片手を自分の唇に当てて小刻みに彷徨わせている。

 


「あっあああ、せせっ先輩…///か、からかわないでください!」

「ふふっ冗談よ。お弁当のおかずの好みは特に無いわ、まあ少し助言をするとしたら、晩御飯の残り物を活用したりするのもアリね、それから…」

「ふむふむ、わかりました~ありがとうございます、早速明日作ってきまっす」

 


(相変わらず私らしくもない掛け合いをしてる。…それにしてもあの子…本当に鈍感なのね)

 


 彼女の前向きさと人懐っこさに、ここ最近は気を許してしまっているのは従順自覚している。私のお弁当が食べたいだなんて変わり者はどちらなのかと思いつつ、それより明日から自分も毎日お弁当を作って来なければいけないという現実に気がつき、頭を抱えて執務室へと足取り重く戻って行った。

 


…翌日

 


「な、何よコレ!なんなのあなた…その頭は飾りなの?どうしてこんなに極端過ぎなおかず一品なのよ!」

「あれ?ダメすか?昨晩たくさん焼いてめっちゃおいしかったので、残った分をおかずに入れてみたっす」

「無いわ…焼きそば詰め込み弁当は却下!」

「そんなぁ、焼きそばおいしいですよ~さあっさあ!」

「胸焼けして胃が悪くなるでしょう、年齢を考えなさい」

 矢代は了解です!と背筋を正してから、美味しそうに焼きそば詰め込み弁当を完食していた。

 


…翌々日

 


「だから~極端過ぎって言ったの覚えてないの?どうしてどっさり野菜サラダと野菜炒めだけなの…」

「先輩が胸焼けしないようにとよく考えたんすよ、愛情たっぷり詰まってるじゃないですか」

「野菜サラダはせめて食べやすいように温野菜にしてみるとか方法があるでしょ…まあ、焼きそば単品よりはだいぶマシね」

「少しは進歩してるんすね。では、先輩の焼き鮭をいただきま…アテッ!先輩?!」

 


私は矢代がお箸で掴んだ焼き鮭を取り返すため、目線の先の手首に軽くチョップを打ち込んだのだった。

果たして矢代は私が満足するお弁当を作って来れるのか…

 


…続く。