影から脱却する方法 前編 (やしなる)

影から脱却する方法 前編

 


わたしは走っていた。息を切らしながら、黒いマスクを被った影を追い続けて、追い詰め、捕まえた影からもう一人現れて気付いた途端、瞳に映る世界が暗闇に染まった………

 


「はぁっ…あうぅ…ぐぅぅうっ………」

ほ……ほ………るす………

「…い………こわ…い………」

「…ホルス…!早く目を覚ましなさい…」

意識が戻ると、そこにはいつもの景色が直ぐに飛び込んで来た。

上と比べると少々薄暗く、倉庫室独特のジメジメした空気が湿っぽく感じる。

「酷く魘されていたわね…また撃たれた時の夢かしら…?」

ソファーに深く座るわたしを見下ろしているのは、文書解読のエキスパートという尊敬すべき鳴海先輩である。

「鳴海先輩…今何時ですか?」

「ちょうど8時10分を過ぎたくらいよ。もう目が覚めたなら、大丈夫ね」

 


踵を返して奥の部屋の階段に足を掛けようとしている先輩を、慌てて腕を伸ばして静止させてしまった。

 


「先輩…!待ってください!」

「何…?もしかして、あなた、またあの部屋でカップ麺を食べたとかじゃないでしょうね?二度と誰も入るなって言ったこと忘れて…!?」

「自分、もう何度もあの時の夢を見ていて、恐怖とか、苦しいとか、そういうドロドロした暗い感覚はもう慣れてしまったと思っているんですけど…っ…すいません…」

「そりゃあ、誰でも撃たれるなんて恐ろしい事で、その時の苦しみが消えるとか、なかなか無いんじゃないかしら…あなたはいつも明るく振る舞っているように見える、でも、あなたの深層心理はどす黒い世界の中でもがいているんじゃないかと、誰でも簡単に推測ができるわね」

「っ…な、泣いてなんていないすから…」

「ふぅ…しょうがない子ね…ここに来なさい」

鳴海先輩はわたしが掴んでいた腕を離し、そっと腕を開いて、腕の中に来てもいいという風に呼んでいるような気がする。

いつもわたしを鬱陶しそうに振る舞っている人間が苦手な先輩が、どうしたものか…

「ホルス!来るのか来ないのか早く決断なさい…」

「鳴海先輩っ…し、失礼しまっす…///」

 


先輩はわたしの背中に腕を回し、優しく何度も背中をさすってくれた。

 


温かい胸の鼓動が、心地良いと感じるのだった。